【霞桜学園】

□第二章
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プルタブ・ペットキャップ運動について話を詰めた後、他の質疑応答や話し合いを行ない、合同総会の報告会は終了となった。
最後に、と間宮は切り出す。


「実は今回の合同総会である高校からの申し出があって、俺と学園の方である企画を進めている。もしそれが確定すればまた話し合いの場を設けるからそのつもりで」
「ある企画? ってなにー?」
「まだ固まってねぇから言わねぇ。また今度な」


詳しく話すつもりはないのか、間宮はそこで話を切る。
神山は何か含みを感じて間宮を見たが、間宮と目が合うことはなかった。
生徒会長としての守秘義務のようなものがあるのだろうと、間宮の話に皆納得して席を立つ。
神山も続き席を立とうとすると、清水が神山のもとに寄って来た。


「神山先輩」
「あ?」
「神山先輩はやっぱり凄いです。本当に尊敬してます」


ニコニコと頬を少し染めて嬉しそうに笑う清水に、尊敬? と神山は首を傾げた。


「何の話だ」
「だって俺らには考えもつかないような案を出すんですもん。以前のマリモ…井川事件の解決もそうですけど、やっぱり神山先輩は違いますね」


そこら辺のおぼっちゃまと違って。
という副音声が聞こえた生徒会役員たちは、ピクリとこめかみを動かす。
自分への好意に鈍いが空気が読めないわけではない神山は、その雰囲気を何となく察した。
対応が違うとはこういうことか、と内心頷きながら口を開く。


「別に、俺は中学の頃に同じ活動をしていたから知ってたってだけだ」
「でもそれを霞桜の特性を活かして昇華したのは神山先輩でしょう? それに」


さっきあの案を言い澱んだのは、利用するようだと、この場の人間に気を遣ったからでしょう、と。
清水は神山の耳に口を寄せて囁く。
その言葉に神山はきゅっと眉根を寄せた。


「…違う」
「ではそういうことに」


ニコリと微笑む清水に、ますます神山は渋面を浮かべる。
ところで、と神山は話を変えつつ気になることを尋ねた。


「清水、お前さっき『隊員たちに言ってみる』っつってたな」
「えぇ、はい、そうですね」
「それは誰の、隊員だ」
「──貴方のです、神山先輩」


神山の非公式親衛隊、という疑惑。
もっと隠すかと思ったが、こうもあっさりと認めるとは。
神山は笑顔を浮かべたままの清水の顔をじっと見つめる。


「そんなもん俺は知らねぇ」
「じゃあせっかくですし、今認めて下さい」
「必要もねぇのに俺が認めるとでも?」
「それはつまり、必要性があれば認めると言うことですよね」
「…、いや」


違う、と否定しようとした神山の言葉を、清水はパンと手を叩いて遮る。


「じゃあ、今度神山司親衛隊を公認することで生じるメリットをまとめて先輩に提示しますね! お疲れ様でした!!」
「おい!!」


清水はサッと手を挙げて挨拶をし、会議室から走り去っていった。
半ば呆然と見送るしかなかった神山に、戸高が唸る。


「強引ながらもあの神山を口で押し切るとは、清水怜央、なかなかの逸材ですね…」
「何の逸材か言ってみろ戸高」
「ただ単に貴方の親衛隊隊長をやるならあれくらい強かでないと、という話ですよ」


ふふふ、と上品に笑っているが、絶対に本性の方の呟きだったことは分かる。
神山は戸高を半眼で見やるが、はぁ、と溜息を吐いて頭を掻いた。


「どんなメリット提示されても認めることはねぇよ」
「でも、神山司も良い意味で目立ってきてるし、作っても良いと思うけどなー」
「情報収集でも人員的にも、コネ的にも、メリット沢山あると思うけどなー」
「親衛隊も言うなれば"友達"ではなく"仲間"みたいなものですし、友達を作りたくない貴方の信条にも背かないのでは?」


親衛隊設立に肯定的な空と海、戸高の意見を聞きながら、神山はフン、と鼻を鳴らした。


「そういうことじゃ、ねぇんだよ」
「…作るのも、作らないのも、本人しだ、い…」
「大塚」
「でも、おれは、…作って良かったと、おも、う」


今なら、そう思う、と。
大塚はゆっくりと、穏やかな表情でそう口にする。
それを聞いた生徒会の面々は自分と己の親衛隊との関係を想っているのか、同じように穏やかな表情を浮べた。


「ま、ナオっちの言う通り神山司次第だし、僕らがどうこう言う話でもないよね」
「とりあえず清水怜央から提示されるメリットとやらを聞いてから、また考えれば良いんじゃないかな」


神山もそれ以上否定する気はなくなったのか、肩を竦めて返事をする。
それを見た所で、戸高がそう言えば、と話を変えた。


「合同総会、どうでした? 懐かしの地元周辺だったんでしょう?」
「何もねぇよ」
「とか言ってぇ〜、間宮と校外デート、しかも自宅訪問イベントもあったんでしょ〜? 何かあったでしょ〜」
「マジで何もねぇよ。残念だったな」
「…、……」


コソコソと腐男子として耳打ちした戸高に、神山は口の端を上げてポンと戸高の頭を撫でる。
戸高がその言動に目を見開くと、突然荒く会議室の扉が開かれた。


「飼い主様、終わったか? 終わったな。さっさと校内デート行こうじゃねーの」
「校内見回りだ、馬鹿犬。お前らも仕事サボるなよ生徒会」


それを別れの挨拶として神山は迎えに来た三谷と共に会議室を出る。
三谷は鋭い目で睨んでくる間宮にベッと舌を出して勝ち誇ったような表情を浮かべ神山の後ろに付いて出て行った。


「…はぁー、金魚のフンのくせに生意気な野郎だな」
「神山も、飼い主様呼びに慣れてきちゃってるじゃん」
「駄犬とか馬鹿犬とか呼んでるよ。特別な呼び方。会長遅れてるぅ〜」
「うっせぇ双子」


きゃっきゃと笑う双子に苦い顔を浮かべる間宮。
そんな三人の話を聞いていた大塚は、ふと戸高の様子に首を傾げる。


「どう、したの?」
「え? あ、いえ。なんだかさっきの、彼らしくない感じが…」
「…そう言えばちょっと、元気ない、かも…?」
「大塚がそう言うなら、間違いないのでしょうね」


戸高は人一倍神山に懐いている大塚の言葉を聞きながら、何かを思案するように神山が去った扉をじっと見つめた。



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