【霞桜学園】

□第一章
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副会長親衛隊隊長はうつ向く。


「僕たちは、生徒会の皆様が誰を好きになろうと、応援…は出来ないけれど、見守る覚悟は出来ているんです。隊長になったその瞬間から」
「でもそれは、あの方たちがあの方たちらしくあることが出来る相手に限ってのこと。ボクが見る限り、それは井川君じゃない」


必死に考えを言葉にしようとしている様子の五人を見て、黙って先を促す。


「俺たちは勿論、間宮様以外の皆様が仕事をしてないのは知ってる」
「だからオレたちは各々、仕事に戻るよう言った。何度もだ」
「でも…戸高様も大塚様も、樋口様たちも聞く耳を持ってくださらなかった」
「優馬は外見しか見ない君たちとは違う、と…」


ぐ、と泣きそうになるのを堪えるように唇を噛み締めている。


「僕は…戸高様が無理に笑っているのも分かってた。でも、心から笑っている瞬間もあったんです。僕はその笑顔に惹かれて、ずっとそうして笑っていただきたくて、親衛隊隊長になりました」
「ボクは、喋るのが苦手な大塚様が気兼ねなく話していただけるような友人を作ろうと、親衛隊を立ち上げました」
「俺は何だかんだ言って兄貴な空様をサポートするために、作った」
「オレは、イタズラ好きな海様に存分に楽しく過ごしてもらえるように」


なのに、外見しか見てないお前らは相手にしたくない、って言われたのか。
話を聞いて分かった。
あいつらは井川に逃げてんだ。
屈託なくストレートにぶつかってくる井川の傍が居心地が良くて。
見守ってくれていたコイツらにも気付かずに。


「…でも食堂で、神山君が皆様に言った言葉は僕たちは勿論、生徒会の皆様にも少なからず響いたようでした」
「神山君と間宮様が立ち去った後、あの方たちも出て行ったんです。いつもは周りがどうしようと気にもしなかったのに」
「だから、お礼を言いたくてな」
「そんで、お願いしに来た」


お願い、なぁ…大体想像ついてるんだけどな。
言ってみろ、と言うと、五人は姿勢を正した。


「どうか、皆様の目を覚まさせて下さい」
「その上で井川君が好きなら、もう何も言わない」
「見守り隊になる覚悟もある」
「生徒会に戻るように、してくれ」


そして私からは、と今まで黙っていた会長親衛隊隊長の曾根崎が頭を下げた。


「間宮様を、支え下さい。間宮様は私たちには迷惑を掛けられない、と一人で全てやってしまわれる。神山君だけなんです、今、間宮様を支えられるのは」


…いや、まぁ、俺は間宮に脅されてんだけどな。
生徒会室綺麗にしたのも、間宮の命令だし。
若干目を泳がせていると、曾根崎は顔を上げて苦し気に呟いた。


「もう私たちは信じて…待つことしか、出来ないんです」


それを聞いて、目を見開いた。
信じて、待つ。
カシャン、とフェンスに頭をもたれ掛からせた。
その音に、ビクッと肩を震わせる五人。
やっぱ怖いんじゃねーか。
でも自分たちの好きな奴らのために、頭を下げに来たのか。


「……それで、充分なんだよ」
「…神山、くん…?」
「信じて待ってくれるだけで、充分なんだよ。何かをしようとしてくれなくても」


俺は空を見上げたまま目を閉じた。
あぁ、クソ、羨ましいとか思っちまったじゃねぇか。
ふざけんな、役員共が。


『おまえが…そんな奴だとは思わなかった』
『ご、ごめん…もう俺らに、近付かないでくれるかな…っ』


拒絶された俺からしてみればテメェらは。


「幸せモンだよ、ほんと……」


そう呟いて、俺は立ち上がってスタスタと歩いて扉のドアノブに手を掛ける。
それに慌てたように声が発せられた。


「か、神山君っ」
「あー、絶対どうにかしてやる…とは言わねぇけど、気に入らないから説教ぐらいはしてやる。間宮も、倒れそうだったら殴ってでも寝かせてやるよ」
「な、殴っ…」


俺は首だけ振り返って、口の端を上げた。 
それだけで冗談を言ったのだと気付いた様子の五人を置いて校内に入った。
まぁ、少しくらいはどうにかしてやるさ。
なんせ間宮に憧れられてるらしいしな、俺。
どいつから文句言ってやろうかと考えながら、俺は人目に付かないように階段を下りていった。



屋上に残された五人は赤髪の男を見送って、息を吐いた。
緊張していたのだ、やはり。
なにせ最恐と噂される生徒なのだから。
でも、食堂でのやり取りを見聞きして会いに行こうと思った。
噂や人の話でしか判断しない人間にはならないように。


「僕、神山君のこと誤解してたかもしれない…」
「ボクも。だって彼、一度もボクらのこと否定しなかったし、手を出す動きなんて微塵もなかった」
「誰だよ、目が合っただけで病院送りとか噂流した人」
「……信じて待つだけで充分、か。ならオレは、神山君も信じて待っておこうかな」


信じて待つだけで充分と、どこか寂しげに呟いた彼を。
曾根崎は神山と同じように、空をも見上げた。


「彼は間宮様とは違うカリスマ性を持った方ですね──……」


間宮はどこまでもついて行こうという気にさせられる。
でも神山は……隣にいよう、と。
隣にいなくてはならないという雰囲気を持っていた。
あの神山司には似つかわしくないかもしれないけれど、どこか──儚いと、思わせた。
曾根崎の言葉に、他の四人の親衛隊隊長も静かに頷いた。


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