【霞桜学園】

□第一章
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「お、今日は来たのか」
「………」


俺が裏庭に行くと、既に会計が居た。
いつもの如く、動物を侍らせた状態で。
俺が裏庭の使用許可をお前は何様だという態度で出してから、会計は意外にもかなりの頻度で来ていた。
勿論来ない日もあって昨日がそうだったんだけどな。
俺と会計は、ポツポツと独り言のように喋る時もあれば、会話をしない時もある。
でもその沈黙は嫌な感じではなく、会計もだいぶ俺に慣れてきたような気がする。
さっきも俺の呼び掛けに、微かに頷いたしな。
俺は会計との間を一人分空けて座った。


「今日も寄って来てんな。俺だけだと逃げられるから、ありがてぇ」
「…あり、がた…い…?」


俺の言葉を会計は繰り返した。
まさかそこを聞き返されるとは思ってなかったが、俺は近くの小動物を眺めながら頷く。


「あぁ、最近疲れてるからな。小動物で癒されてんだよ」
「疲れ、…な、んで…」
「掃除で」
「おま、えが…そーじ…?」


なかなか失礼な奴だな…。
まぁ、不良と掃除っつーのはペアにしにくい単語ではあるが。
…いや、ある意味しやすくはあるか…本当に、ある意味で、だが。
つーか、と俺は言った。


「生徒会室の掃除してんだよ。食堂で言っただろうが」


生徒会、と告げた途端、会計は久々にビクリとした。
何だコイツ、俺が気を遣って生徒会に関して触れないとでも思ってたのか。
今まで言う必要がないから触れなかっただけだっつの。


「井川に言っとけ。あんま汚すんじゃねーって」
「………」
「毎日毎日掃除させら…、…掃除する俺の気持ちになれよ」


最近では自主的にしてることを思い出して言い直す。


「コップやらティッシュやら散らかし過ぎなんだよ、お前ら。井川に引っ付いてんだったらそれぐらい…」
「……るさい」
「あ?」
「おまえ、うるさい…っ!」


そう叫んだ会計は、突然立ち上がった。
その目が珍しく真っ直ぐに、俺を捉える。
そこには責めるような感情が渦巻いていた。
何が会計の感情を刺激した…?
背が高い分威圧感はあるが、残念ながら俺には効かない。
とりあえずいつものテンションで返してみるか。


「うるさくねぇだろ。汚なくすんなら片付けろ」
「関係、ない…っ」
「はぁ? あんだけ井川に引っ付いといて…」
「も、う、優馬に、は…おれ、いらない…っ!」
「は? っおい、会計!!」


走り去った会計を呼び止めるが、止まることなくどこかへ行ってしまった。
俺だけになった途端、小動物たちも俺から離れる。
少し呆然としてしまったが、直ぐに思案し始める。
もう井川には会計は必要ない…ってどういう意味だ…?
やっぱり井川と何かあったと考えるのが自然だな。
だから逃げるかのように、この裏庭に来てたわけだ。
にしても…俺に向かって優馬に近付くな、とか言ってた奴が自分で井川から離れるとか、相当なことじゃねぇか?
それを踏まえると関係ないっつったのは、会計たちが生徒会室を汚すことと俺とのことじゃなくて、もう井川と会計は一緒にはいられないから言伝て出来ない、ってことになるのか。
そこまで考えて、眉間を押さえる。
このまま行くと、中学で生徒会長としてやってたようなことをしなきゃなんねぇ気がする。
俺は不良じゃなきゃいけねーのに。
でも。

『お前が、鷹宮を変えてくれるのか…?』
『本当に、俺らを助けてくれるの?』

あいつらと同じような表情されたら。


「何でこんなことになるんだよ…」


どうにかしたくなるのは、俺の性分か。
俺は深く深く、溜め息をついた。




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