【霞桜学園】

□第一章
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(山下side)



それを聞いた時に沸き上がった、何とも言えない感情。
嬉しいような、悔しいような。
そしてそれを上回る、高揚。
何かが変わるような予感がした。
神山と接触したかったが、生憎徘徊している神山を探す暇がない。
だが、食堂から出た神山は間宮と共に生徒会室に戻っているような気がして俺は生徒会室に向かった。
すると予想通り、神山と間宮はいた。
俺と神山は、噂で知ってはいるが実質初対面であったから挨拶をした。
目が合っただけで病院送りなんて噂を流した馬鹿はどこのどいつだと言いたくなるほど、神山は普通の人間だった。
どういう経緯で関わるようになったのかは知らないが、間宮とも友人のように会話していた。
神山は生徒会だの風紀だの家柄だの容姿だのを気にしない性格のようだから、間宮も話しやすいんだろう。

そう思い至って、俺が気に入ったぞと神山に対して口にすれば。
間宮は神山を後ろから抱き締めて、俺のモンに手ぇ出したら風紀潰すぞ、と威嚇してきた。
その目は、恋する男の警戒のソレだった。
これには内心、かなり驚いた。
間宮が誰かに対して固執するのを初めて見た。
もしかして二人は恋人同士なのかと思ったが、神山は反論していたから違うのかとの結論を出して、また驚いた。
間宮が片想いなんて、青天の霹靂だろう。
何があったのか好奇心を抱いたが、間宮へのリコールの呼び掛けと神山との接触を果たした俺は、間宮が憧れているという他校の生徒会長について口にして退室した。

間宮が憧れている会長について、以前生徒会役員と俺に話して聞かせてくれた。
学校改革をしたこともそうだが、それを威張らず驕らない態度と、生徒たちから慕われている所に憧れたらしい。
間宮家が調べればその鷹宮中学の生徒会長の名前も現在地も分かるだろうにそうしないのは、その会長への憧憬故だ。
だからそれを尊重して、俺やまだまともだった役員たちもその会長に関しては調べようとはしなかった。

風紀室に戻った俺は、頭を切り換えた。
いつの間にか間宮に近付いていた神山。
ただの友人や恋人同士ならば問題ない。
だが、今になって間宮と関わる気になった神山の意図が分からない。
井川のせいで荒れに荒れている、今になって。
喋ってみれば神山は悪い奴でないとは感じたが、間宮は現在霞桜学園を動かせる唯一の生徒会役員だ。
俺も慎重にならざるを得なかった。
それ故に、俺は実家の山下家に神山司の調査を頼んだ。

そして後日与えられた情報書類を見て、驚愕した。
神山は間宮が憧れている、鷹宮中学の生徒会長だったのだ。
神山は成績優秀、文武両道を体現したような存在感で鷹宮中学に進学。
その中で有名な不良校だった鷹宮を改革していた。
しかし変化が訪れたのが、中学三年の三月上旬。
暴力事件を起こした神山は有名公立高校の推薦も取り消され、もう隠す必要がなくなったとばかりに髪を赤に染め、不良らしく振る舞い始めた、と書かれていた。
霞桜の誰もが予想しないであろう情報の真偽を確かめたくなったが、本人に訊けば疑って調べたことを知られてしまう。
それは何となく、遠慮したかった。

そしてまた数日が経って、間宮に相談したいことが出来た。
ずっと、風紀で話し合ってきたことが中々決まらない。
しかもそれは、生徒会に大きく関わることだった。
もうこの際、間宮に訊いてみようかと生徒会室に行けば、また神山がいた。
神山は井川のように邪魔するのではなく、片付けをしていたようだ。
何故神山がと思ったが、会長席で眠っている間宮を見てそんな疑問は消失した。
間宮は一人で仕事をするようになってからは、簡単に休むことはなかった。
それが最近特に顕著だったというのに、間宮は実際に目の前で寝息を立てている。
すると神山はしれっと睡眠薬を盛った、と告げてきた。
それは間違いなく、間宮を気遣っての行動。
それから俺と神山は仮眠室に間宮を寝かせ、その部屋を出た。

そこで神山の背中を見て、罪悪感と探究心が湧いてきた。
俺はたまらず、謝罪して情報の真偽を問うと、神山は誤魔化すことなく頷いた。
暴力事件は許されるものではないが、過剰であれ、絡まれた故の暴力であったし、今の神山は間違いなく間宮の支えになっている。
そこで思い付いたのだ。
神山に、風紀で話し合ってきたことを任せてみればどうか、と。
風紀で話し合ってきたことというのは、ある役職についてだった。
その役職に神山は適任だと思った。
最初は渋っていた神山も、間宮の負担を口にすれば頷いてくれた。

そうして俺は今、その役職の推薦書を書き終わった。
これを学園に提出すれば、完了だ。
学園が渋ろうが、絶対に通してみせる。
何と言っても神山に関する噂の大半が偽物で、本人は入試オール満点合格と風紀関係の問題を一切起こしていないという事実があるのだから。
これで神山も、間宮も、俺も、動きやすくなるはずだ。


「頼んだぞ、神山──……」


俺は、神山とは風紀としてではなく一生徒としてなら関われたのに、今まで関わってこなかった。
それなのに、自分勝手な期待を抱いているというのは分かっている。
だが、何か変わってくれれば良いと、以前のような生徒会に戻ってくれと。
願わずには、いられないんだ。



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