【霞桜学園】
□第一章
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(書記兄side)
僕と海は瓜二つの双子。
僕が兄で海が弟、だから僕がしっかりしないとなって思ってる。
なのに今、僕は何をやっているんだろう。
仕事も全部会長に任せて、そのクセ会長がセフレと遊んでるなんて噂…僕が流してるわけじゃないけど黙認して。
今だって。
「なぁ! 聞いてるのか!」
「え、あ、なにー?」
「人の話聞かないのは悪いんだぞ! でも俺は優しいからな、謝ったら許してやる!」
「優馬ってば優しいなー、ごめんねっ」
寮の副会長の部屋に僕と海と優馬と副会長の四人が集まってお菓子を食べてる。
考え込んでた僕は優馬の話を聞いていなくて謝ると、いいぞ! と満足げに笑う優馬。
どこまでも真っ直ぐで天真爛漫な性格は僕たちにとっては珍しいけど…どうして話を聞いてなかったのか尋ねてはくれないのかな。
…なんて、優馬にそれは無理な注文だよね。
話を聞いてと言っても僕の望むような応えが返ってくる気もしないし。
だから聞いてと言わずに通じるなんて思っちゃ駄目だよね、それこそナオっちみたいになっちゃう。
…そう言えば、ナオっちはどうしたんだろう。
優馬に拒絶されて僕たちに…優馬に近付かなくなったナオっちは。
そしてそんなナオっちのことを何故か尋ねて来たあの赤い髪の不良は。
「そう言えばナオっち、親衛隊と仲良くなったんだってー」
そんなことを考えていると、何ともタイムリーに答えが分かった。
顔を上げると僕そっくりの海がにっこりと笑ってた。
僕の考えていること分かったのかな、流石双子だなぁ。
でも、この場で言っちゃったのは間違いなんじゃないかな。
だって僕らの横には優馬が居るんだから。
「親衛隊? 何で俺に黙って仲良くなってるんだよ!」
「んー、何でだろうねぇ」
「親衛隊なんて生徒会の敵じゃんか! 何で俺を放ってるんだよ尚輝は!!」
あぁ、ほらやっぱり怒った。
それにしても何でナオっちが離れたか、優馬はもう覚えてないのかな。
ちゃんと喋れよイライラするって怒鳴ったのは優馬なのに。
騒ぐ優馬にキッチンで飲み物を用意していた副会長がジュースを渡す。
僕らの前にもオレンジジュースが置かれているのは情けか、それとも優馬が仲間外れは駄目なんだって言うからか。
多分どちらもなんだろうなぁ。
「尚輝のことは良いじゃないですか。離れていく者は勝手に離れて行きますよ」
「でもっ!」
「その分私が優馬を愛してあげますから」
にこりと微笑みながら優馬の頬をするりと撫でる。
副会長は優馬に本気っぽいなー。
ナオっちが居なくなってせいせいしたって所なのかな、ライバルが減ったって。
ライバルも何も、ナオっちは優馬を恋愛的に好きってわけじゃなかったような気がするんだけど。
優馬はぐぐっと拳を握って小さく呟いた。
「だって、尚輝は俺のなのに…っ」
その言葉に一瞬優馬はナオっちのことが好きなのかと思った。
だけどそんな好きな相手を想った言葉にしては声が熱を孕んでいない。
それに優馬は会長のことが好きなはずなんだから。
だったら優馬が気に入らないのは何だろう。
ナオっちが親衛隊と仲良くなるのがそんなに悪いことなのかな。
「俺、尚輝を探しに行く!!」
「え…」
「尚輝は親衛隊に騙されてるんだ! 目を覚まさせてやらないと!!」
「ちょっ、優馬!?」
ばっと立ち上がってそう宣言した優馬は走って玄関の方に向かう。
バタンッと荒い音がしたところを聞くとどうやら本当にナオっちを探しに行ったらしい。
「…空、海、優馬を追って下さい。私は片付けをしてから後を追います」
「あっれー、直ぐに追いかけないの? ナオっちに取られちゃうかもよ?」
「それはないでしょう」
はぁ、と海の言葉に溜息を吐く副会長はジュースの入ったコップをキッチンへと持って行った。
それはないでしょう…ねぇ。
一体どういうつもりで言ったんだろ。
まぁ仕方ないか、優馬を一人で居させるのは色々な意味で危ないから。
「じゃあじゃあ空」
「うん、そうだね海」
「「行こっか」」
副会長の部屋から出た僕たちは寮の廊下をのんびりと歩く。
「どこに行ったと思う? 僕は予想付いてるよ」
「僕も付いてるよ」
「「生徒会室だよねっ」」
声を揃えてにんまりと笑い合う。
こういう風にお互いを自分の分身のように確認するようになったのはいつからだったかな。
「でもナオっちが親衛隊と仲良くなったなんて言ったら、こうなるのは分かってたでしょ?」
「だって面白そうじゃん。あのナオっちが親衛隊と仲良くなんて絶対有り得ないと思ってたし」
優馬が上手く掻き乱してくれると良いよねぇ、なんて言った海に僕は確信を抱いた。
海も優馬に対して恋愛感情を抱いていないということに。
やっぱりねぇ、海も僕と双子なら優馬みたいな子には恋愛感情は抱かないとは思ってたんだよ。
海の根底にあるものも僕と同じ『面白さ』なのかな。
でも僕はそこまで掻き乱したいとは思ってないからな…あぁ、ここでも違いが出て来た。
海にバレないようにしないと。
生徒会室の前に着くと何やら声が微かに聞こえる。
生徒会室の扉越しに声が聞こえるなんて相当大きな声だよ。
「やっぱり優馬はここに来てたね」
「かいちょーのこと大好きだからね」
ナオっちのことを口にはしていたけど、それは半分くらい会長に会う為の口実なんだと思う。
会長は俺様のクセに時々お節介でお人好しだからね、しかもあの顔だし。
海が生徒会室の扉を開いた。
「ゆう…」
「何でそんなこと言うんだよ!!」
生徒会室に入った途端優馬のそんな言葉が耳に入る。
僕と海が顔を見合わせて中を見ると、会長席に座ってる会長とオロオロとしているナオっち、そして二人を怒った表情で見ている優馬。
会長とナオっちの視線が僕らに向いた。
親衛隊と仲良くなったのは知ってたけど、ナオっち会計の仕事に戻ったんだ。
…良かった。
「「優馬、どうしたの?」」
「空、海! 尚輝は親衛隊に騙されてるって言っても納得してくれないんだ!」
「おい、さっさと優馬を連れて行け」
「ひどい! 何でそんな冷たいこと言うんだよ! 俺は裕貴に会えて嬉しいのに!!」
あれ、会長がそんなストレートに優馬を邪険にするの初めてじゃない?
何か焦ってる…?
「…もう一度言うが、尚輝は自分の意思で親衛隊と話し合った。騙されたわけじゃない」
「有り得ない! だって親衛隊のせいで友達出来なかったんだろ!?」
「ちが…う。俺が、喋ろうと…伝えようと、しなかった、から」
「ナオっち…」
ナオっちが、喋ってる。
たどたどしいけど、ちゃんと伝わる言葉。
一体、何があったの…? …もしかして。
俯く僕に海が心配そうな表情を向けて来たと同時に後ろの扉が開いた。
「ゴミ捨てて来たぞ。あとは何か…」
そこから現れたのは鮮烈な赤い髪。
僕が大きく見開いた目に、うわ…と生徒会室の中を見て状況を悟った神山の姿が映った。
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