【霞桜学園】

□第一章
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☆☆



「……めんどくせぇな」


ぼそりと呟きが漏れた。
いつも通り絶賛サボり中な俺は今、霞桜学園内を彷徨いている。
先日、生徒会親衛隊隊長たちに宇宙人…もとい転校生の井川に盲目的に惚れ込んだ役員どもを何とかして、更に会長の間宮を支えてくれ、と頼まれたんだが……。
ぶっちゃけ、めんどくさくなってきた。

間宮を支えてくれっつーのはまだ良い。
いや別に、一人で頑張ってる間宮を支えたいんだとか気色悪いこと思ってるわけじゃなく。
そもそも、間宮に写真で脅されてる身だから現状変化はないしな。
でもよ…他の役員に関しては、俺に関係なくないか?
今のところ間宮の脅し以外はそれなりに自由だし、役員どもに言われた暴言の数々は言われ慣れたモンだから怒ってはないし。
鷹宮中学の生徒会長だった時は小さな障害でも見逃さずに潰してきたし、やる気もあった。
でも今は、そのやる気が起きない。
と言うか、どうやって目を覚まさせようか考えてたら萎えてきた。
似非笑顔潔癖王子に、無口無愛想に、やんちゃ双子。
萎えるなという方が無理だ。


「そもそも俺じゃなくて親衛隊が自分で…いや、やったけど無理だったんだったな…」


あー、くそっ。
俺は赤い髪をわしゃわしゃと掻く。
ここで、じゃあ役員は放置で良いか、という結論を出せない自分の性格に腹が立つ。
一度引き受けたからには、やり遂げないと気が済まない。
もう考えるのは止めだ。
行き当たりばったり、流れに身を任せりゃ良いんだよ。
中学の時だって、ノリで学校改革したじゃねーか。
よし、と頷いていると、授業終了のチャイムが聞こえた。
授業間の休み時間に校舎から出てくる生徒はあんまいねぇけど、一応俺のテリトリーだと噂されてるらしい裏庭にでも行くか。

裏庭はスズメとか結構集まるんだよな。
…俺には近付いてくんねーけど。
足を進めていると、裏庭が見えてきた。
それと共にチュンチュンとの鳴き声も微かに聞こえる。
俺はスズメとか猫とか動物系は嫌いじゃねぇ。
嫌いじゃないってだけで、好きなわけでもない。
逃げられないように足音を立てないように近付いてるのも、別に好きだからってわけじゃない、勘違いすんなよ。
くそ、裏庭には木の枝が落ちまくってるから音立てないようにすんの難し…いや、飛び立っても俺は構わねぇんだけどな。
誰に言うわけでもなく言い訳がましいことを心で呟きながら、小さいスズメに近付く。
おい、この距離新記録なんじゃ……。


「……って下さい!!」
「お願い…ます、……様っ!!」


バササッ。
どこからか突然響いた声に、俺のほぼ目の前という新記録を達成しようとしていたスズメが。
羽を広げて飛び立っていった。


「……ハッ」


俺は鼻で笑った。
いやいや、別に気にしてねぇよ。
最恐と噂されるこの俺が、スズメとの戯れを邪魔されたからって怒るわけないだろうが。
内心悔しさにうちひしがれていると、邪魔をした声が少しずつ近付いてきた。



「僕らは近付かないで下さいとは言ってません!」
「ただ、親衛隊の統制が…っ」
「……おい、テメェら」


俺の声で俺の存在に気付いて、此方に顔を向けたのは三人の生徒。
そして顔を青ざめさせたのは、その中の二人の平均より小さな生徒。
せっかくスルーしてやろうとしてたのに、テメェらは…。


「喧嘩やんなら他所でや…」
「ひっ…!」
「か、神や…っごめんなさぁぁいぃぃッ!!」
「あ、おいっ!?」


逃げられた…。
俺ってやっぱ怖がられてんだな。
堂々と会いに来た生徒会親衛隊隊長たちが珍しかったってわけだ。
ンなビビらねぇでも、目ぇ合わせただけで病院送りとかはしねぇっつの。
わしゃりと頭を掻くと、その場に残っていた長身の生徒に気付く。
そしてソイツの顔を見て、俺は目を瞬かせた。
確かコイツは…。


「あー…会計、だったか?」


俺の言葉にビクリと肩を震わせたのは。
無口無愛想な、生徒会会計だった。



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