【番外編】

□【柳原学園】副会長編
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松村 悠里。
私は彼の名を中等部から知っていた。


中等部入学式の日、緊張によるものではないざわめきが私と同じ新入生の間に広がっていた。
その視線の中心にいる少年、それが彼だった。
幼さを残すその顔立ちは確かに、まだ同性愛者として目覚めてもいない少年にすら黄色い声を上げられる素晴らしいもので、堂々とした強い笑みもそれを引き立たせていた。
私はそれを見て思った。


──この子とは気が合いそうにないですね、と。


どうも私は、ああいう強そうで強引そうな人間を好きになれない。
我が儘で自分勝手で愛されて当然みたいに振る舞うような人間を。
だから彼とはなるべく関わらないようにして、中等部時代は過ごした。
それでも彼の名声や人気は耳に入った。
運動でも一番、勉強も私を抜かしていつも一番。
なのにいつも余裕そうな笑いを絶やさない。
私は努力しているのに。

半ば嫉妬を抱いたまま、高等部入学。
高等部からは親衛隊なるものも許可され、私にも七月ぐらいには出来たけれど、彼には四月早々に出来ていた。
隊長はどうやら早乙女という一個上の先輩且つ心は女性という人物らしい。
意外だった。
彼は、もっと可愛らしくて小さくて自分をちやほやしてくれるような生徒を隊長にすると思っていたから。

そして彼は高等部でもその才覚を発揮して、二月始めの生徒会選挙で生徒会長の座を獲得した。
そして私は次いで副会長に。
あぁ、また彼の後ろか、と内心落胆した。
私は周りに王子だの優しいだの綺麗な心の持ち主だの言われてはいるけれど、私だって人間で高校生だ。
ただ表に出さないだけで、嫉妬もするし落胆もする。


そしてその日から引き継ぎが始まった。
会計や書記や庶務もなかなか性格が濃そうで、会長である彼とも興味なさそうに接していた。
淡々とした空間に、薄い反応。
上手くいく予感が全くしない。
会計はにこにこしながら仕事を避けそうだし、書記は剣道部行ってくるとしか言わないし、庶務は彼に対してさえ毒舌を発揮する。
不運なことに、松村 悠里を崇拝しない柳原学園での数少ない生徒が、彼の下に就くことになってしまったらしい。
私を、含めて。
それでもやって行くしかない。
なるべく私は生徒会役員と交流を持つようにした。
と言っても、雑談程度のものだけれど。


そんなやり取りもあまり上手く行かず、ある日私は生徒会室にある給湯室で紅茶を淹れていた。
紅茶は、良い。
心を癒やしてくれる。
彼は噂に違わず俺様で、流石の私もイラッとしたこともある。
来年からやっていけるのだろうか、と内心溜め息をつくと、給湯室の入口に気配が現れた。


「工藤。俺にも紅茶、淹れてくれ」


突然の、彼からの頼み──私には命令にしか聞こえなかったけれど。
私は頷いて眉根を寄せて紅茶を淹れ、それをにこやかな笑みに変えて彼の机に紅茶を置く。
今日の紅茶はアールグレイ。
私は紅茶好きが発展して、淹れるのにも自信があった。
彼がティーカップに口を付けて意外と上品に飲むその姿を見て、私は言葉を待った。
美味い、とまでは言わないけれど、何かしらの反応を示してくれると思って。
すると彼は座りながら私を見上げて言った。


「何かまだ用か」


愕然と、した。


──『美味しい』どころか、淹れたことに対してのお礼も言わないんですか、この人は……!?


私は何も言わず──否、何も言えずに給湯室に逆戻り。
やはり私の彼に対する第一印象は間違っていなかった。
彼は自分が何かを与えられることを当たり前と思っている傲慢な人物だ。
なら私も彼に従順なフリをして、心は絶対に彼には開かないようにしよう。
本当は関わりたくないけれど、会長と副会長となるのだからそれは無理な話だ。




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