【聖条学園】

□第三章
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「…くしゅんっ」


自分のくしゃみでパチリと目を開けた。
ズビッ、と鼻を啜って、まず目に飛び込んできたのは、一面の木々。
…えーっと、どこだっけ、ここ。
あぁ、親衛隊から逃げ隠れて、そのまんま寝ちゃったのか。
もし見付かったらヤバかったろうに…肝据わってるな、俺。
なんて頭の中で整理した所で、ぼーっと目の前に広がる神聖な雰囲気を持つ空間を見詰める。
懐かしい、夢を見た。
ソラさんのことを想いながら寝たからかな。
《ウラノス》に入った俺は、一つ年上だと判明したハルとナツと特に仲良くなって、ソラさんの言う通り堅苦しい敬語を喋らなくなった。
ナツが俺に悪影響を与えるんじゃないかと頻りに心配していたアキさんに、頬を膨らませて怒っていたナツは良い思い出だ。
その光景が思い出されて、ぷっと笑いそうになったけど、そこでふと視線を感じた。
何か…横に居る気が…。
そろっ、と横を見てみると、そこには。


「こ、こんにちはー……?」


つい挨拶してしまった。
だって真横に人が居たんだもん。
しかもそいつ、超イケメンさん。
切れ長の目、そしてまず目を惹くのは髪。
───銀色の、髪。
木漏れ日に反射してキラキラ輝いてる。
貴志は大手会社の一人息子なだけあって品があるイケメンだけど、目の前の人はなんつーか…そう、ライオンみたいな荒さがある。
銀髪のライオンとか…この場の神聖な雰囲気にベストマッチングしてんじゃねぇか爆発しろ。
俺はそいつのネクタイをチラリと見た。
赤…ってことは一年か。
俺と同学年に見えない。
つーか、何で黙ったまんま? 何で真横にいんの?
しかもめっちゃガン見してくる。
でも何か…静かな、瞳だ。
何故か見詰め合う状態になってたんだけど、目の前の銀髪イケメンは突然、すっと目線を下げた。
それにつられて俺も、俺と銀髪イケメンの間に視線を移す。
そこには、銀髪イケメンの手をがっちりと握った俺の手が。


「って、ご、ごめん!! 俺が手ぇ握っちゃったから動けなかったのか!」


ぱっと放しながら慌てて謝った。
寝ぼけて、たまたま近くを通ったと思われるコイツの手を握ってしまったようだ。
何で直ぐ気付かなかったとか言うな。
朝、貴志に起こしてもらう俺の睡眠事情で察してくれ。
つーか、別に振り払っても良かったのに。
あれか、俺を起こさないようにしてくれたのか。
派手な見た目と違って優しいぞ銀髪イケメン君。
俺が放した手をじっと見ていたソイツは、顔を上げて口を開いた。


「…お前、名前は?」
「俺? 如月蓮」
「…俺は、日高祐介だ」
「うはー、名前までカッコいいな。何組?」
「1ーA」
「へぇ、1ーA…1ーA? えっ、嘘だろ? 俺と同じクラスじゃん!!」


え、待て待て。
こんな奴、入学して一回も見たことないぞ。
チラッとでも見たら絶対に忘れない俺が言うんだから間違いない。
そこまで考えて、俺はひらめいた。


「お前、俺の斜め前の席のサボり魔か!!」
「サボり魔…まぁ、まだ一回も教室には行ってねぇな」


やっぱり。
出欠確認の時、奏が言ってた奴だ。
多分来ないだろ、って。
ってことは、何かしらの訳あり君ということかな。
俺が言えることじゃないけどね!


「どーりで見たことないわけだよ。その銀髪だったら居たら気付くもん」
「…怖いか?」
「へ? 何が?」
「俺が」
「日高が? んなわけないじゃん。何、銀髪は怖がられるとか思ってんの? ばっかだなぁ」


また初対面でバカとか言ってしまった。
寝起きが悪いらしい真白会長で学べよ、俺。
そう心の中で反省しながら、日高の銀色の髪に触れた。
キラキラと光を反射していて。


「すっげぇ綺麗だよ」


にっ、と笑いかけてそう言った。
すると日高は目を見開いたかと思えば口元を手で覆って、そっぽを向く。
あれ…怒らせちゃったのかな。
ちょっと不安を抱いた俺に、日高は何でもない、と首を振った。
そして日高は目を逸らしたまま、言いにくそうな表情をする。


「……で、良い」
「ん?」
「…祐介で、良い」
「じゃあ俺も蓮で良いよ、祐介」


蓮、と小さく呟く祐介は、心なしか嬉しそうに見える。
ふむ、人嫌いってわけじゃなさそうだ。
もしかしたら、入学式に何かの事情で行けなくて、ずるずると不登校状態が続いちゃったのかもしんないな。
まぁ、入学式サボって生徒会役員すら知らなかった俺が言えたもんじゃな…、…生徒会?


「…あぁぁぁああ!!」
「っ、どうした?」
「ちょっ、今…もう放課後!?」


寝過ぎだろ俺!!
午後の授業全部サボっちゃったじゃんか!!
奏にまた怒られる…っていうかそれどころじゃない。
ばっ、と急いで立ち上がる。


「やばい、生徒会室行かないと…っ」
「…生徒会室? …何でだよ」
「俺、雑用係やってんの」
「雑用? お前が?」
「うん、入試で首席だった奴は強制的にな」


そう言うと、祐介は目を見開いた。
そんな顔しないでくれ…頭良さそうに見えないのは俺が一番分かってるんだ…。


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