【聖条学園】

□第二章
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(no side)


蓮は掛け布団を握り締めて語りだす。


「…僕は一度見たものは忘れない瞬間記憶能力と、他人の動作や能力を真似出来るコピー能力を持っています。その能力を伸ばし完成させるのが、研究員の目的でした」
「その為に、彼らは君に何をした?」
「瞬間記憶の方では、絵柄の付いたカードを覚えさせられたりしました」
「コピー能力の方では?」


すらすらと答えていた蓮だったが、その圭吾の問いには言葉を詰まらせた。
大丈夫だから、と百合に背中を擦られて意を決したように顔を上げる。


「……銃や素手の戦闘映像を見せられて…実践させられました」
「実践、とは?」
「具体的に言えば…銃を持った男たちと銃や素手での戦闘をしました」
「え…? それはバーチャルでってことよね…?」
「…いえ、実際に。そこで僕は撃たれたり、逆に撃ったり、…サンの肉体強化能力のコピーは制御が上手く出来なくて、その人たちを殺しかけたこともあります」


何度も、と告げられた内容に百合は口元を手で覆い、政司は目を呆然と見開いて青ざめた。
圭吾は眉根を寄せ、ソラは目を瞑る。
予想、していなかったわけではない。
実際に襲い掛かられたソラには、なんとなく分かっていた。
銃で撃たれて出血多量で朦朧とした中での、《ウラノス》幹部と同等の強さ。
その時は事情が詳しくは分からなかったから、ただ凄いと思っていただけだったが。
それからの断片的に知っていった事実に、もしかしたらそういうことも、と。
しん…と沈黙が病室を支配する。
それを破ったのは、ガタリ、と立ち上がったソラだった。
そして蓮の目の前に立ったソラはビシッと蓮を指差して。


「蓮、お前《ウラノス》入れ」
「…はぁ!? おま、イキナリ何言ってんだ!」


息子の突然の勧誘に、圭吾は目を剥く。
蓮もぱちくりと目を瞬かせた。
しかしソラは何てことはないというかのように続ける。


「内々に処理するっつーことは、銃持った人間殺しかけた蓮を捕まえるこたぁしねーんだろ?」
「ま、まぁ…そういう決定になってる。ただし部外者には口外しない、という条件が付いてくるが…」
「蓮は六年間血生臭い所にいた。誰にも護られることなく。周りには犯罪者と護らなきゃならない仲間のみ。そんな子供を、イキナリ世間にブチ込むのか?」


息子の強い言葉に、圭吾はうっと黙る。
すると先程の事実に衝撃を受けていた百合が、外見上は落ち着いた様子で首を傾げた。


「《ウラノス》って、蓮ちゃんを助けてくれたグループよねぇ?」
「いや、如月さん、グループというか…」
「族です」
「族って、不良とかのかい?」
「はい。俺は《ウラノス》の総長やってます」


総長、と驚いたように眉を上げて呟いた百合と政司。


「…でも、ソラさんは僕を助けてくれました。ソラさんが…ソラさんたちが優しいことに間違いはありません」
「そう言われると照れるが…。《ウラノス》幹部には蓮と歳の近いヤツもいる。ハルとかナツとかな。そいつらと喋れば、誰に対しても使われるその堅苦しい敬語もマシになるだろ」
「堅苦しい…」


敬語は、もう癖のようなものだ。
研究員たちの機嫌を損ねないためのもの。
でも確かに、両親に対して敬語を使うのはおかしいかもしれない。
ソラは蓮の両隣に座る百合と政司を見詰める。


「危ないことはさせません。蓮を俺らの仲間に入れても良いですか、百合さん、政司さん」


ソラの真摯な眼差しに百合と政司は顔を見合わせて頷き合い、蓮を窺う。


「蓮くんはどうしたい?」
「私たちは、構わないから。蓮ちゃんの好きなようにして良いのよ?」
「僕は…僕は、《ウラノス》に入りたいです」


蓮は目の前にいるソラの袖を掴んで見上げて。


「ソラさんの傍に、居られるのなら」


その言葉に。
百合はあらあら、と口元に手を当てて。
政司は妬けちゃうなぁ、と苦笑して。
圭吾はエライ懐かれようだな、とソラを肘でつつき。
ソラはうるせぇ、と照れたように圭吾に言い返して。


「──じゃあよろしくな、蓮」


わしゃりと、自分を慕う少年の頭を優しく撫でた。








森の奥深くで、ずっとずっと空に焦がれていた。

感情を捨てても、その憧憬だけは失わなかった。

大きくて明るくて、全てを包んでくれる空。

そんな空が、僕は大好きなんです。

昔も今も、そしてきっとこれからも───……


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