【柳原学園】

□第六章
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「はー、やっと着いたねー」
「今更国内ってどういうこと? 悠里様と海外旅行が出来ると思ったのに…っ」
「松村君、金髪碧眼の美女にナンパされそうだよね」
「修学旅行と言えば国内に決まってるでしょ」
「木原クン、見事な掌返しー」


三人の漫才のようなやり取りに内心笑いながら、俺もバスを降りる。
今日から二泊三日の修学旅行です。

修学旅行は二年の行事ということで、俺も生徒会ではなく普通の生徒として自分のクラス、2-Aと共に行動することになってる。
俺はほとんど教室に行ってなくて、友人と言える人が目の前の綾部と俺の親衛隊副隊長の木原、そして学級委員長の坂口しか居ない。
まぁ、俺のクラスは親衛隊の教育なるものが浸透していて、他の皆も俺を特別視しないんだけどやっぱり実際に普通に接するのは難しいみたいだ。
今回の修学旅行で沢山の人と仲良くなれれば良いんだけど。
バスを降りると当然ながら周りには日本人ばかり。
木原の疑問に答えるように、事前に配布された修学旅行のしおりを思い出す。
確か今回国内なのは…。


「『改めて日本の良さを学び、今後社会に出る上での糧としてほしい』っつー理事長の意向だろ」
「しかしその心は」
「坊ちゃん高校の修学旅行で日本経済を潤せ、ってなァ」
「…離れろ。重いんだよ、柿崎兄弟」


俺の後にバスを降りて来た2-A担任柿崎夏希と、今回の修学旅行同行に選ばれた養護教諭柿崎志春がニヤニヤと俺の肩に腕を回して来た。
木原が少しそれに顔を顰めながら、呆れたように言う。


「何ですかそれ。高校生の修学旅行に求めるものじゃないでしょう」
「だから建前としてさっき松村が言ったことが掲げられてんだよなァ」
「お前ら修学旅行での所持金、制限なかっただろ? ま、そういうことだ」


なるほど…中等部の時は制限あったのにおかしいと思ったんだよな。
だとしてもそういう大人の事情をバラすなよって話だけど。
ちなみに夏希は最初2-A担任ではなかったんだが、元の担任と副担任がお家騒動で同時に休暇。
一学期の期末テストの時はまだ仮担任だったんだけど、二人が本格的に実家にかかりきりになって辞めざるを得なくなり、結果夏希が正式に2-A担任になった。
そして志春は学園にもう一人居る養護教諭と、新たに一時的に雇った養護教諭に学園の生徒を任せて自分は今回の修学旅行に付いて来たらしい。
本来は修学旅行だけの雇われの人が養護係として同行するはずなんだけどな。


「お前ら兄弟が揃ってると面倒な予感しかしねぇ」
「だってよ。お前帰れ、夏希」
「いやいや、俺担任だから。兄貴こそ帰るべきだろ」
「馬鹿かテメェは。松村の身体をどこの馬の骨とも知らねェ野郎に任せられる訳ねェだろうが」


馬の骨って、学園が雇う人はちゃんとした身元の人だろ…。
そして夏希、なるほど、とか納得するな。



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