【柳原学園】

□第四章
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(no side)


後日、喫茶店星彩には再び悠里と麗斗の姿があった。
そのおかげで星朧の不良たちのテンションは上がりっぱなしで、星彩には笑顔が溢れていた。
月岡も麗斗に牽制されながらそれを物ともせずに悠里にアタックしまくっている。
しかし新たに訪れて来たのは、悠里が嫌がらせと称してキスをした新庄だった。
その後ろからは黒瀬が相変わらず眠そうな表情で付き添っていた。
この二人の登場に再び緊張する空気。
すると黒瀬が悠里を見付けて、手を軽く上げた。


「どうも、紅龍兄。この間振り」
「え、あ、おぅ、この間振り」
「なっ、何でお前仲良さげなんだよ、黒瀬…っ」


咄嗟に俺様演技をしながら黒瀬に挨拶を返すと、新庄が黒瀬の服を引っ張って抗議した。
その様子に敵意を感じずに星朧は首を傾げる。


「じゃあ新庄さんも挨拶すれば良いじゃないですか。紅龍兄が来てるってわざわざ情報集めて会いに行きたいって言ったの新庄さ…」
「黙れ馬鹿!!」
「…えーっと?」


何だか様子がおかしい。
悠里が何か用か? と新庄を見ると、新庄はかぁっと顔を赤らめた。
あれ、何だかこの反応よく学園で目にするような。


「べっ、別に会いたかったわけじゃねぇ!! 俺はお前に文句言いに来たんだよ!!」
「文句?」
「お前、あの松村だからって…俺ん家のこと馬鹿にしやがって…っ」


その言葉にアカとアオは顔を見合わせた。
どうやら松村悠里の名で調べた結果、松村家の長男だと知ったらしい。
悠里は目を瞬かせて、ゆっくりと立ち上がり新庄の元へ近寄る。


「別に新庄家を馬鹿にしたつもりはねぇよ、俺は」
「だ、だって…っ」
「あれはお前が自分の喧嘩に家のこと持ち出すから言っただけだ、他意はねぇ」
「っ、じゃあ、俺のこと、馬鹿にしてたってことかよ…っ」


悔しそうに唇を噛み締める新庄。
しかし悠里はでもよ、と続ける。


「俺はお前のこと見直したぜ?」
「え…」
「俺の家のこと知っても噂広まってねぇし、レイ…紅龍とか星朧への嫌がらせも止まったって聞いた」
「それは…」
「むしろ堂々と文句言ってくるなんて、気分良い方法になってんじゃねぇか。そっちの方が、俺は好きだ」


悠里が嬉しさのあまり柔らかく微笑むと、新庄と黒瀬は目を見開いた。
そして新庄は、ぼんっと頭を沸騰させてあわあわと慌てだす。


「おっ、お前に好かれても、俺にメリットねーし!!」
「まぁ、俺とお前大して仲良くもないしな」
「う…っ」
「本当に馬鹿ですね、新庄さんは。俺と紅龍兄は仲良しですよ。ねー?」


え、そうなの? と思ったがマイぺースな黒瀬に乗せられて頷いてしまう。
その途端新庄は目を吊り上げた。


「お前っ、俺を差し置いて何で…っ」
「さっきの笑顔良かったよ、紅龍兄。ギャップ萌え? 俺と付き合わない?」
「なっ!? 誰がおにーさんをやるかっつーんだよ!!」
「俺のユウへの噂聞いたことあるにも関わらずその態度…喧嘩なら買うぜ、黒瀬」
「く、黒瀬と付き合うぐらいなら、俺と付き合えよ!!」
「え?」
「え?」


月岡、麗斗と続いて新庄から発せられた言葉に、悠里は首を傾げる。
すると自分が言ったことを理解していなかったのか、同じように疑問詞を浮かべる新庄。
しかしその言葉を理解した途端、新庄は真っ赤になって涙目になる。


「〜っ松村兄のバカヤロー!!」
「えっ、おい、スバルッ!?」


そのまま涙声で出て行ってしまった新庄に、ポカーンとする星朧の面々。
月岡と麗斗は凶悪な顔をしている。


「おー…何だコレ、一度に三つ美味しい。紅龍兄、グッジョブ」
「…お前なぁ、面白いからってそういう冗談はどうかと思うぜ?」
「冗談じゃないけど」
「え」
「新庄さんをからかいに戻ろうかな。またね、紅龍兄」


再びあっさりと帰って行った。
本当に対照的な出方をする新庄黒瀬コンビである。
それにしても黒瀬はいつも眠そうな表情で、本気かどうか分からない。
まぁ、先程のも黒瀬流の冗談だったのだろう。
そう結論付けた悠里の後ろで、新庄と黒瀬を出禁にしようと画策する星朧の姿があった。


「ほんとに愛されてるねぇ、ユウ君は」


また千秋に報告することが増えた、と。
霧島は楽しそうに微笑んでいた。





◇◆◇第四章 完◇◆◇
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