【柳原学園】

□第四章
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(no side)


***
 
暗くて大きい部屋の中。
少年が、膝を抱き寄せて。
身体を縮こまらせて座っている。

ぐるぐるぐるぐる、嫌なことばかりが頭を巡って。
母が生きていて、父も優しかった頃を思い出し。
母が亡くなって、父が厳しくなったこれからのことに思いを馳せる。

弟も自分と同じように、こことは別の反省部屋に閉じ込められているのだろうか。
一つ下の弟に火の粉がかからないように。
今以上に頑張らなきゃ。

そんな少年の決意とは裏腹に。
心は不安で埋め尽くされて。
少年は一人、涙を流した。

暗くて大きい部屋の中。
少年はどうしようもなく。
どこまでも、独りだった。

***


はっ、と目を開けると、慣れ親しんだ自分の部屋の天井。
柳原学園で自分を偽り、生徒会長として過ごす青年はベッドの上で体を起こした。
あぁ、もう朝かとぼんやりと思った青年は、ポタリと落ちた雫に気付く。
わざわざ触れて確認するまでもない。


「あー…頭痛い……」


暗くて大きい部屋の中で、静かに泣く幼い自分の夢を視た。
青年は手のひらで、夢と同様に涙を流す自分の目を覆う。
また、この時期が来た。


汗ばむ季節。
既にセミの鳴き声が聞こえ始めている。
それは、青年──松村悠里の母、由美の。
命日が、近付いていることを示していた。



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