【終わらない物語】

□【微笑みに秘めて】第一章
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東條 楓、十六歳、高二。
イケメンでもなく、高身長なわけでもなく。
家が金持ちとかいうわけでもなく、スーパー頭良いというわけもなく。
勿論、俺の右腕には封印されし云々というわけでもなく。

高校生活は平々凡々普通平均的街道を突っ走ってきた俺は今。




「ちょーっとお金、恵んでくれないっすかー?」




校内で不良に絡まれています。
……なんでだァァァア!!





☆☆



今日春休み明けテストで昼に学校が終わり、俺は帰宅しようと思っていただけだったのにどうしてこうなったのか。
鷹ノ原高等学校は、普通に不良とか存在するような男子校。
普段は統率者がいるから一般生徒にはあまり絡んだりしないんだけど、今春だからねー。
不良の新入生もいるし、気分高揚して馬鹿な行動に走る馬鹿もいるわけだ。
春って変態さんが増えるっていうじゃん?
こいつらは前者っぽいな。
まだ統率されてない新入生の二人だ。
…一年下に絡まれる俺ってどうなのとかは思わないからな!


「なぁ、聞いてんの? アンタ」
「先輩、俺ら金ないんすよー。だから可愛い後輩に恵んでくれません?」


自称可愛い後輩の言葉に、ピクリと反応する。
コイツら今何つった。


「……んな」
「は?」
「ふざけんな!!」


怒り出した俺を二人の不良は目を瞬かせて、ぶっ、と吹き出した。


「怯えた末の怒りってマジ痛……」
「お前ら『可愛い』なめんじゃねーぞ!!」
「…は?」


馬鹿にしたような笑いを引っ込めて、叫んだ俺を呆けて見てくる。
でも今はそれどころではない。
今あろうことかコイツは、自分のこと可愛いっつったか。
勘違いも甚だしい!


「可愛いっつーのはな、天使のような愛らしい笑みで笑いかけてくれるような子に使うんだよ!! ちょうど俺の妹みたいにな!!」


優花可愛いから、マジで。
今四歳で、お兄ちゃん、なんて言って慕ってくれるマイエンジェル。
可愛いは優花の為にあるんだよ!


「第一お前らは可愛いじゃなくてカッコイイだろ、履き違えるなイケメンが!!」


ゼーハー、と肩で息する俺。
鷹ノ原の不良には何故かイケメンが多い。
不良なのに女の子にもモテるとか、羨ましすぎる。
と、考えが着地したところで我に返った。
……不良に、生意気な口をきいてしまった。
目の前の二人は目を瞬かせ、顔を見合わせて反応に困っているようだ。
そりゃそうだ。
平凡なカモがいきなりシスコン発揮したんだからな。


「アンタ、な…」
「──そこで何してんだ」


不良その1が口を開きかけた時、低い声が割って入った。
俺と不良たちは同時にそちらを見ると、銀のメッシュが入った黒髪さんが眉根を寄せて立っていた。
あれ、ちょい待ち。
こいつ確か…。


「アンタ誰っすかー」
「名前を訊く前に自分から名乗れクソガキ」
「はぁ?」
「っちょっと待て。この人、二年の有川 亮さんじゃ…ッ」
「え…」


不良その2がその1の耳に囁く。
有川 亮。
コイツこそが、鷹ノ原の不良の統率者。
名前だけは知ってたけど、こんな…こんっなイケメンだなんて!!
鷹ノ原はイケメンしか不良になれないんなら、俺絶対なれないよ。
立ってるだけで威圧感ハンパないんですけど。


「っす、すみませんでしたッ!!」


ばっ、と頭を下げた二人。
おぉ…現れただけで謝らせるとは。
有川は一般生徒を虐げるような真似は嫌いだって聞いたことがある。
大体不良との抗争が主らしい。
有川は頭を下げている二人を見下ろした。


「次一般生徒にカツアゲなんてつまんねぇ真似してみろ。鷹ノ原の不良全員が敵になると思え」
「ッは、はいっ!」


行け、と顎で尊大に示すとその二人の不良は俺を見ることなく走り去ってしまった。
おー…手際良いな。
二人の不良の背中を見送りながら感心していた。



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