【終わらない物語】

□【狐と影】第二章
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『……ッテメェらが他人の価値なんか決めんじゃねぇッ!!』



オレはそんな叫び声を聞いた。


何やアイツ喋れたんや、ちゅーかまだ声変わりもちゃんとしてへんガキちゃうの。


あれからパッタリと名前が途絶えたアイツ。


どこや、どこにおる。
オレはアンタに殴られた時の痛みも初めて聞いた声も言葉も忘れへんで。


捜し出したら言いたいことがある。


どこにおんねん。


なぁ、狐───…





☆☆



「あ、弁当忘れた」


昼休み、俺の言葉に剣斗と雅人は足を止めた。


「やんねーぞ」
「野崎と同じく」
「お前らの友情はそんなもんか!! 恵んでやるよ、おバカさん☆、ぐらい言えねぇのか!!」
「「キモい」」


うぅ、陽さん、俺の友達が冷たいです…。
せっかく作ったのに机の上に忘れてきた…ぐすん。
仕方ない、と俺は財布を取り出す。


「金は無駄にしたくないけど、購買でパン買ってくる。二人は先に屋上行っといて」
「無駄にって…星叶学園通ってんだからお前だって金持ちの息子だろ? 金ならいくらでも貰えるんじゃねぇのか」
「うーん…、まぁ、俺は貯金する派だから。じゃ、行ってくる」


雅人の言葉に不自然にならないように返して俺は購買へと向かう。
確かに私立星叶学園に通ってるし、俺は戸籍上社長御令息ってなってるけどウチはそんな単純じゃない。
むしろ歪んでるから俺はグレちゃったわけで。
お金なんて最低限しかくれないんだよ。
心配させたくないから言わないけどさ。

購買に行ってパンをゲット。
日頃自炊してるから何個のパンで腹一杯になるか分からないくて、とりあえず四個買ってみた。
剣斗と雅人が待つ屋上は、購買とは別校舎だから中庭を通らなきゃいけない。
星叶学園、なんて綺麗な名前に違わず綺麗で落ち着く雰囲気の中庭が、俺は結構好きなんだ。
あのベンチに座って木々を眺めるのも……ん?
俺はそのベンチに目を移して、更にその下、つまり地面に目が行った。
あれ、ちょっと待って。
あれ…何か、人倒れてない?
え、もしかして病気とか発作とかで意識ないとかいう状況だったり……。


「だっ、大丈夫ですか!?」


俺はパンを抱えて、ベンチの側に倒れてる人の所に駆け寄る。
その人は俺の声に反応してピクリと指を動かし、俺を見上げて言った。


「パン…オレに恵んで下さい…」
「…え? パン?」


関西弁のイントネーションでそう言った。
つまり? 空腹で倒れちゃった感じなのかこの人。
なぁんだ、脱力したー。
って、死にそうな顔してるこの人にはそんな状況じゃないのか。
パン…俺の昼ご飯なんだけどなぁ…。


「うー…じゃあ一個だけあげます」
「!! ホンマか!? アンタええ奴やなぁ!」


急に元気になった関西弁さん。
コイツ…騙された感がありありなんだが。
でもあげるって言っちゃったし、あげるしかないか。
はいどうぞ、と一個パンを差し出すと、ありがとなー、と明るく返された。
この人、良い笑顔だなぁ、なんて思ってしまった。


「じゃあ俺はこれで」
「って、ちょお待って! どこ行くん?」
「あ、屋上に友達待たせてるんで…」


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