【終わらない物語】

□【狐と影】第一章
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『お前、俺んとこ来るか?』



何言ってんだ、数分前に初めて会ったばっかなのに行くわけないだろ。


大体お前誰だよ、俺が誰か分かっててそんなこと言ってんのかよ。


そう言おうとしたのに。




『……は、い…っ』




そう泣きながら頷いた俺の頭を撫でながら、あの人は優しく笑ってくれた。



ねぇ、陽さん。
俺はあの言葉で救われたんだよ。
誰かにずっと、言ってほしかったんだ。

だから陽さん。
貴方のためなら、俺は───






☆☆



「おっはよー、剣斗」
「お早う、咲夜」


朝教室に入ると既にMyフレンド、中原 剣斗が座って本を読んでいた。
剣斗の席は窓側の後ろから二番目。
朝日に照らされて後光が射してるように見える。
クッソ、イケメンめ!!
心の中でそう叫びながら俺は剣斗の後ろ、つまり窓側の一番後ろに座った。
よし、俺は今からミッションを開始します。


「中原様」
「課題やってねぇのか」
「何故バレたし!!」


コイツ…エスパーか!!
剣斗はハァ、と呆れたように息をつくと体をズラして後ろを向いた。


「お前が俺を様付けで呼ぶ時は何かしらある時だろうが」
「いや、もしかしたらお前のファンクラブに入ったのかも…」
「脱会を命ずる」
「早い!!」


そんなに嫌なのか、俺が『中原様ファンクラブ』に入るのが。
嫌がらせで本当に入ってやるぞコノヤロー。


「マジで入りやがったら、二度と課題見せてやんねーからな」
「心読んだのか!? じゃなくてウソウソ!! ファンクラブ入らないって! ファンクラブ入るほどお前のこと好きじゃねーもん!」
「殺すぞ」


バシンッ、と剣斗が読んでいた分厚い本で頭を叩かれた。
おまっ…首の骨折れるでしょーがっ。
なんだよ、入るなって言ったのお前じゃん。
むすぅ、と頬を膨らませて剣斗を睨むと、剣斗は目を瞬かせて目を逸らした。


「…お前、その顔止めろ」
「はいはい、高一男子のクセにキモいってね。分かりましたよーだ」


ゴチン、と額を机に落とす。
そりゃあ剣斗が承認してないにも関わらず出来ちゃったファンクラブの皆みたいに可愛くないけどさぁ、そんなあからさまに目ぇ逸らさなくても良いじゃん。
…あの子たち可愛いんだよなー。
チワワみたいで、もはもはしたくなるんだよ。
あー、剣斗羨ましー。


「…お前、もう別のこと考えてんだろ」
「!? まっ、まだ怒ってるよ!!」


こっ、この読心術者め。
悉く俺の心読みやがって…!
剣斗の目が『コイツバカか』ってのをありありと語ってくる。
あ、バレバレですね、てへぺろ☆
剣斗がまた俺の頭に何かを叩き落とそうとしているのが見えて思わず目を瞑る。
ぱしっ、と軽い音と共に、同じく軽い何かが俺の頭に。
すると剣斗はそれを俺に差し出してきた。


「課題」
「へ?」
「課題、見せてほしいんだろーが」
「──っ中原様大好きでっす!!」
「黙れ、さっさとしろ」
「うーぃ」


俺は上機嫌で剣斗の数学のノートを開く。
コイツほんとに不良なのかってツッコミたいぐらい綺麗なノートだ。
しかもぱっと見全部合ってるし、剣斗とテストでガチ勝負してみたい。
……いやいや、落ち着け吉野 咲夜。
星叶学園に入学する前、陽さんに宣言したじゃんか。
『平凡目指します!!』って。
俺の天才的頭脳は封印封印。
まぁ、素の俺でも剣斗には負けちゃうんだろうけどさ。
コイツ気持ち悪いぐらい頭良いから。



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