【番外編】

□【霞桜学園】据え膳食わぬは
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山下の予想通り間宮は固まっていた身体を瞬時に嫉妬と憤怒に染め上げた。
そして無言で神山と山下の間に入って、神山を後ろに庇うように立つ。


「山下テメェ…神山に手ぇ出したら風紀潰すっつったよな」
「…落ち着け間宮、誤解だ」
「何が誤解だ? 無理矢理神山襲ってんじゃねーか」
「お前は何と聞いてここに来たんだ」
「神山が倉庫で襲われたって風紀が話してたのを聞いたんだよ」


なるほど、立ち聞きの方だったか。
しかし何ともまぁ、中途半端な所を耳にしたものだ。
神山に恋愛感情を抱くのは構わないが、その嫉妬はどうにかしてほしい。
反省の色もない──無実なので反省もなにもないのだが──山下に、間宮は静かに怒り山下の胸ぐらを掴む。


「俺を支えてくれる神山を、俺も護るって決めてんだよ。そんな神山を傷付けるようなクズは俺が…ッ」
「やーめーろっつーの!!」
「いっ…な、んだよ、神山…っ」


ごんっ、と間宮の頭を神山がチョップした。
…間宮にこんなことが出来る勇者は神山だけだろう。
神山は呆れたように腰に手を当てる。


「なぁに恥ずかしいこと言って勝手に突っ走ってんだ、テメェは。山下は襲われてた俺を助けに来てくれたんだっつの」
「襲われたって…まさかお前ヤられ…!! たんじゃないのかそうだよな分かった悪かったからその足を下ろしてくれ頼む結構痛いんだそれ」
「いちいち下ネタ挟むな馬鹿が」


ノンブレスで神山の何かを止めた間宮。
ふん、と鼻で息を吐く神山の手に、間宮の手綱が見えそうだ。
しかし誤解も解けたようで、間宮は怒りを霧散させて気まずそうに視線をよこす。


「あー…山下、悪かった」
「…はぁ。俺は風紀委員長であることを誇りに思っているし、友人としても間宮の大切な人間に手を出そうとは思わない。嫉妬するのは構わないが、行きすぎるとマリモ軍団のようになるぞ」
「ふっ…ま、マリモ軍団…っ」


つい心の中でいつも言っている言葉が口を突いて出ると、それがツボに入ったのか肩を震わせる神山。
神山の様子と山下の言葉に再び悪い、と間宮は口にした。
分かってくれれば良い、と謝罪を受け入れる。


「つーか、誤解されるようなことしてたお前にも非があるだろ。何やってたんだ」
「それは謝る。神山の制服が乱闘で乱れていたから、整えようとしていただけだ、他意は一切ない」
「乱れた?」


くるりと間宮が振り返った先には、ボタンも取れてどうしようもなくなった制服を着た神山の姿。
目の前に曝された色気を振り撒く肉体を目にした間宮が取った行動は。


「んっ…っておい、ま、間宮!? ちょ、何やっ、ぁ…んっ」


鎖骨に唇を寄せて吸い付くというネジがブッ飛んだ所業だった。
あまりにも突然の行動に反応が遅れた山下は、神山の儚げな声にハッとして間宮の肩を掴んだ。


「ま、間宮、君は何をやってるんだ!」
「いや、据え膳食わぬは男の恥かと思って」
「〜っンの…っくたばれクソ会長がッ!!」


がんっ、と渾身の力で蹴り飛ばされた間宮を置いて、神山は顔を赤くしてキスマークが見えないように制服を手繰り寄せてさっさと倉庫から出てしまった。
山下は腹を押さえてうずくまる間宮に、呆れた声色を落とす。


「間宮、いつか神山に本気で嫌われるぞ…」
「ンなわけねぇだろ。慣れてねぇから恥ずかしがってんだよ、あれは」
「否定はしないが…俺は君を風紀室で指導なんて真似はしたくはないからな」


間宮のことだから無理矢理、なんてことはないとは思うが。
そんなことを思いながら一応注意すると、間宮は立ち上がってニッと口の端を上げた。


「アイツを傷付ける奴は、例え俺でも許さねーよ」


後で風紀室に寄る、と山下に告げた間宮は神山を追うかのように倉庫から出ていった。
生徒会長と最恐不良、この二人がどのような繋がりで今の状態になったのかは知らないが、確かに風紀の手を煩わせるようなことにはならなさそうだ。
お互いがお互いを護るつもりのようだから。
あの二人の様子を見せればマリモ軍団も目が覚めるのではないだろうか、と山下は風紀委員長らしく、未だ解決しない問題に思いを馳せた。




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