【柳原学園】

□第四章
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(no side)


その後麗斗が戻って来て、月岡のことをアディと呼んだ悠里に詰め寄ったり月岡が全力で誤魔化したり。
アカとアオの事情を麗斗に話したりとドタバタして夜も更けると、悠里と麗斗は喫茶店星彩をあとにした。
また近い内に来るから、という言葉に星朧の不良たちは心躍らせながらいつもの生活へと戻って行く。
そこには、霧島の姿がなかった。
霧島は二階の自室に携帯電話片手に壁に寄りかかっている。


「あ、もしもし?」
『何だ、真尋。久し振りじゃねぇか』


電話口から男らしい口調が聞こえて来た。
霧島はその言葉に肩を震わせる。


「そっちの様子はどうだい? やはり相変わらずなのかな」
『相変わらずも相変わらず。ほんっと頑固だぜ、アイツ』
「ははっ、お疲れ様。…まぁ、僕からしてみれば、君のその立ち位置は羨ましいことこの上ないのだけれど」


こつん、と壁に頭を付ける霧島の表情は穏やかだ。
言葉は羨ましがっているが、実際は霧島自身今の状況を受け入れていることを知っている電話の相手は、ふっと笑っただけだった。


「実は今日、ユウ君とレイ君が僕の店に来たんだよ」
『…は? 麗斗だけじゃなくて、悠里もか!?』
「そう。沢山喋ったし、好印象を勝ち得たと思う。僕って勝ち組じゃない?」
『何で俺を呼ばなかった、真尋…!!』


ひどく悔しそうな声である。
それだけでもあの二人を溺愛していることが窺えるというものだ。


「呼べるわけないでしょう。お互い勤務中なのに」
『二人が居ること知ってたら、言葉巧みに騙して、アイツも連れて行ったのに』
「え、祐一様連れて来てくれたの? それは惜しいことしたなぁ」


祐一、それは悠里と麗斗の父の名だった。


「でも駄目だよ、僕がレイ君の溜り場の店主してること、祐一様に言ってないし」
『ま、祐一も知ってるんだろうけどな』
「素直になれば良いのになぁ。柳原学園の生徒会長していた時より頑固になってるよ」
『確かお前、生徒会長だった祐一の親衛隊隊長、とか言ってたよな』


生徒会長親衛隊隊長、霧島真尋。
それが霧島の学生時代の肩書きだった。
その懐かしい響きに笑みを深める。


「まぁね。近くに居ることが出来ない僕の代わりにしっかりと祐一様を支えてよ、千秋」
『分かってるっつの。秘書っつーのも大変なんだぜ?』
「だろうね。僕は僕なりに外堀埋めて行ってみるから。…由美様にも、安心してほしいし」
『おう。そう言えばお前も由美の墓参り行ってくれたみてぇだな。ありがとよ』


電話の相手…祐一の秘書であり、悠里と麗斗の叔父である三浦千秋は、霧島にお礼を言う。
学生時代、確かに祐一に恋愛感情を抱いていた霧島。
卒業した後も祐一のことを気に掛けて、千秋と知り合い、祐一の妻である由美の存在も知った。
しかしその時はもう恋愛感情など超越した尊い感情を祐一に抱いていた霧島は、祐一に関わる全てのものが大切に思えていた。
それ故に、祐一の妻である由美へ嫉妬など抱かずただ大事に想っているのだ。


「どういたしまして。またユウ君とレイ君来るらしいから、その時また自慢してあげるよ」
『くっそ、俺も堂々と溺愛してぇわ』
「君に聞いていた通り、二人とも可愛いかったよ。こっちのことは任せておいて。この街にいる限り、二人は僕が護るから」
『…あぁ。頼んだぜ、真尋』


じゃあね、と別れを口にして、霧島は電話を切った。
頼んだぜ、なんて信頼の言葉が耳に残る。


「君の為にも頑張るからね、千秋──…」


学生時代のような胸の密かな高鳴りに、霧島は先程まで繋がっていた携帯電話をぎゅっと握りしめた。



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