【聖条学園】

□第三章
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「新歓?」
「そう、いわゆる新入生歓迎会だね」


生徒会室にて、いつものごとく雑用に精を出していた俺に生徒会長の真白先輩はにこりと微笑んでそう言った。
新入生歓迎会、四月の内に新一年生のために行われるもの。
つまり主役は俺たちなわけだけど、何ともまぁ急な話だ。


「四月の内って、もう来週しかないじゃないですか」
「今年の予定はGWに入る前日だよ〜」


にこにこと無邪気にペンを握る木下先輩。
その紙に書かれている落書きは何ですかね、ってか地味に上手いなこの人。


「まぁ、新歓があるのは分かりましたけど。その企画案ってどこまで進んでるんです?」
「ゼロだ」
「…はい?」
「ぜぇんぜん手ぇ付けてへんのや、新歓の企画」


眉間を揉む副会長の神谷先輩とそれに続いた野崎先輩。
ふむ、全然手を付けていない新歓が来週のGW入る前にある。
そしてその企画を立てる義務があるのは、生徒会。
そして今、俺は生徒会の雑用をやっている。


「すみません、ちょっと今から所要のインフルエンザにかかるのでGW明けてからまた…」
「にっがさな〜いよっ、レンちゃん?」
「いやちょっとすみません今から失礼なこと言います、馬鹿じゃないんですかアンタら」


何でそんなものをこんなギリギリまでやらなかったんだ。
俺の腕に抱き付く暇があったら案の一つでも出したらどうなんだ。
そんな思いを込めた一言に、神谷先輩は申し訳なさそうに額を押さえた。


「俺の予定では先週の内に八割決まって、今日には学園に提出出来るはずだった」
「じゃあ何で…」
「まさかコイツらがここまで仕事をしない奴らだとは思わなかったんだ…っ」
「あぁ…」


サボり癖のある生徒会長に書記に会計。
副会長であるはずの神谷先輩が仕切っているのがもう日常化していて、あれ、どっちが生徒会長だったっけと本気で迷う時もしばしば。
それに振り回される神谷先輩に俺は何度目か分からぬ同情を向ける。
あぁ、ほんとにこの人アキさんそっくりだ。
ウラノスの総長であるソラさんは頼りになるけど普段はどこかヤンチャだし。
フユさんはちょっと喧嘩っ早いし、ナツは犬みたいに目を離すとどっか行くし。
ハルは消極的過ぎて逆に扱いづらいらしい。
だからウラノスの頭脳であるアキさんはいつも頭を抱えていた。
イチはこの人たちみたいにならないで下さいねと、よく頭を撫でられたものだ。


「俺も、手伝いますよ…神谷先輩」
「あぁ、そうしてもらえると助かる」
「何か蓮クンて潤クンに甘いよなぁ?」
「ちゃんと仕事してくれるなら貴方にも甘くしてやりますよ、野崎先輩」
「俺はちゃんとしてますぅ」


何言ってんだ、パソコン見ながらニヤニヤしてるのしか見たことないぞ。
エロサイトでも見てんじゃないのかお盛んですねぇ。


「まずは何をするか決めないといけないんだが…」
「お菓子作り大会は〜? 全部の審査、僕がやるよ〜」
「木下のための行事になるだけだろう。却下」
「じゃあ皆で日向ぼっこしようよ。特別に良い場所教えてあげる」
「それも真白のための行事なる、却下。あとその特別な場所とやらを教えろ、お前を探す候補に入れる」
「ならハッキング講座でも…」
「お前は新入生を犯罪者にするつもりか!」
「なんやの冗談やん、ジョーダン」


ワクワクと顔を輝かせる木下先輩に、朗らかに微笑む真白先輩に、けらけらと笑う野崎先輩。
あぁ、生徒会は過酷なツッコみ不足だ。
至急ツッコみを募集した方が良い、俺を除いて。
お前は何が良い、と神谷先輩に問われる。
新入生歓迎会なんだから一年の俺に助力を求めないでいただきたいものだが、アキさん似の神谷先輩の為だひと肌脱ごう。


「鬼ごっこで」


俺の口から出たのはやる気の欠片もない答えだった。
だってそんな急に言われても直ぐに思いつけるもんじゃないし、俺は特待生、つまり庶民の感覚でしかモノを言えないわけで。
何を言ってもどうせ却下されるだけだろ。
そんなことを考えていると、ふと誰も口を開かないのに気付いた。
あれ、もしかして怒らせちゃったか。
そう思って顔を上げると、先輩たちは一様に目を瞬かせていた。


「あのー?」
「良いな、それ」
「は?」
「良いじゃん、鬼ごっこ〜!」
「え、ちょっ」
「鬼ごっこやったらそんな準備もいらへんやろうしなぁ」
「待っ」
「生徒会役員は待機ってことにしておけば動かないでも良さそうだよね」
「いやっ」
「じゃあ今年の新歓は鬼ごっこで」
「「「さんせーい」」」


何ということでしょう、あっという間に決まってしまいました。
鬼ごっこという運動嫌いには地獄のような行事に。
…やってしまった、やってしまったどうしよう。
鬼ごっこなんて恨み辛み抱えてる親衛隊の皆様に俺を狙えと言っているようなもので。
そしてその案を出したのが俺と知れれば、魔王様もとい俺の幼馴染の貴志が確実に怒る。
貴志が怒ったらマジで怖い、冗談じゃなく怖い。


「如月、お前にも企画固めを手伝ってもらうからな」
「…了解です」


こうなれば出来るだけ俺の被害が少なくて済むようにガンガン口出して行こう。
まずはそうだな、この楽する気満々の生徒会役員を大いに巻き込んでみよう。


「鬼ごっこを前半と後半に分けて、それぞれに生徒会役員も参加すべきだと思います」
「え〜、どうして〜?」
「新入生歓迎会なんですよ!! 歓迎する気持ちがあるのなら、聖条学園の顔である生徒会役員が参加しなくてどうします!!」
「めっちゃやる気やんな、自分」
「僕たちが参加したら、蓮君嬉しい?」
「そりゃあもう、感謝感激雨霰ですよ!!」


生徒会役員が参加すれば、親衛隊は絶対にそっちに行くだろうし!
力強く頷けば、そっかと真白先輩は微笑んだ。


「蓮君が喜んでくれるのなら、僕は参加しようかな」
「じゃあ僕も〜」
「まぁ、たまには身体動かすのもええか」
「そうだな」


よっしゃ誘導成功、流石俺だよよくやった。
ぐっと拳を握ったところを真白先輩に見られて、何でもないですと誤魔化した。
この調子でどんどん誘導行ってみよう。


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