【霞桜学園】

□第一章
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(no side)


自分の親衛隊との会談が終わった後、間宮は生徒会室に戻っていた。
放課後であっても仕事があるのが生徒会だ。
ようやく全員戻って来たと言ってもやはり今までサボってきた分が捌ききれていない。
これを一人でやり遂げようとしていた少し前の自分に呆れる。
今考えてみると、間宮自身少し意地になっていた面もあったのかもしれない。
現在生徒会室に居るのは間宮のみだ。
大塚や樋口たちは風紀や職員室に資料を取りに行ったり確認作業に行ったりしている。
戸高は優馬の様子を見て来ます、と言ったきり連絡はない。
山下とも以前話していたが、何故か戸高は気配を感じさせないことが多く密偵のような役割を度々負っている。
あんな華々しい高貴なオーラをまとっているくせに気配が薄いなんて、あれもある意味人の表と裏なのだろうかと間宮は思う。
どちらが表でどちらが裏なのかは知らないが。


「ふー、疲れたぁっ」
「今日のお仕事終わったよーっ」
「そうか。尚輝は?」
「ナオっちも居るよー」


生徒会室の扉が開くと同時に騒がしい双子の姿が現れた。
空と海はやり遂げたような表情を浮かべていて、神山と関わる前の嫌々仕事をしていた顔とは全然違う。
間宮が双子に問うと、ひょこりと大塚も生徒会室に入って来た。


「俺も、終わった」
「分かった、お疲れ」
「あれ? 神山司は?」
「かいちょー、神山と一緒に親衛隊の会談行ってたんだよね?」


その問いに、気まずそうな表情を浮かべる間宮に双子と大塚は首を傾げる。


「もしかして親衛隊の前で神山襲っちゃった…?」
「きゃー、かいちょーケダモノー!!」
「!? かい、ちょ、神山傷付けた…?」
「違ぇよ冗談言うな。尚輝もあっさり信じるな」


イタズラ好きな双子と高校生にしては純粋過ぎる大塚に間宮は頭を抱える。
生徒会でツッコミと言えば間宮と戸高だけだ。
実は戸高も限りなくボケ体質なのだが、間宮はそれをまだ知らない。


「…護衛の件で、神山と揉めてな」
「へぇ。どうせ会長のことだから、神山の護衛は譲れないとか言ったんでしょー」
「うっはぁ、過保護ー」
「過保護か?」


そう言うと、双子は同じ顔でうわ、と呟いた。


「神山喧嘩強いんでしょ? なのに護衛つけるとか」
「過保護以外の何物でもないよねー」
「だが神山は風紀に一度も世話になったことないんだぞ?」
「え、神山司が?」
「あぁ、海は知らないんだっけ。ヤマっちにも聞いたけど本当らしいよー」


ほぇー、と海は心底驚いているようだ。
そして噂は本当に当てにならないねぇ、と机の上を片付け始める。


「でも神山司のあの頭突きは本物だった。間違いないよ」
「それに神山の自分の力に対する自信もきっと実力から来てるんじゃないかなー」
「…かいちょ、神山、のこと、心配?」


ぽそり、と小さく呟かれた声の方を見ると、大塚がじっと間宮を見つめていた。
その瞳は何かを分かっているような色を湛えていて。
間宮はペンを置いて、とん、と人差し指で机を叩く。


「…あぁ、心配だ。大事だから…好きだから、尚更」


愛情に溢れる声色。
いつも冗談交じりに言われていた言葉。
だが今、神山が好きだと、明言された。
その声音で三人は、本気なのだと、悟る。
それを受けて大塚は思い出すように目を細めた。
浮かぶのは、親衛隊との会談の時、大塚が神山に対して友達だと言った場面。
──…俺に友達はいらない、と。


「…神山、辛そうな顔、する」
「辛そうな顔?」
「友達、いらないって」


初耳だった間宮は、大塚の言葉に目を見開く。
そしてそれに思い当たることがある海は、そう言えばと口を開いた。


「僕も空のことで暴走してた時、神山司が泣きそうな顔をしてたような…いや、僕の勘違いかもしれないけど」
「…僕が神山に海だって嘘の自己紹介した時も傷付いた…んだよね」
「あ、あとね、空は見えてなかったと思うけど…ほら、空さ、神山司に『そんな奴だとは思わなかった』って言ったじゃん?」
「う、うん。海の方が手を出したのに勘違いしちゃった時に…」
「その時の神山司の顔色ヤバかったんだよー。吐くんじゃないかってくらい」


え、そうだったの、と空は罪悪感が色濃く滲む声を出す。
しかし神山はそれに対して謝罪を求めているわけではない。
それにこれは、神山の触れられたくないこと、のように感じた。
三人は間宮の方に視線を向ける。


「会長が神山心配なのって」
「こういうことが繋がってたりするの…?」
「…お前らの言ってることに心当たりがないわけじゃねぇ。そもそもそういうアイツを見て護ってやりたいと思ったのが、好きになったきっかけだしな」


一言で言えば、危うい雰囲気をまとっているのだ。
最恐不良だなんて言われているクセに、危うくて、儚いと思わせる何かが神山には存在する。
そしてそれに不用意に踏み込むと神山は強く、一切を拒絶するのだ。
強いのも分かっている、強くあろうとしている神山の心も好きだ。
でも少しくらい頼ってもらいたい。
間宮は、はぁー、と長く息を吐いた。


「どうしたものか…」
「かいちょー…意外と不憫さんだったんだね」
「まぁまぁ、神山こういう詮索とかあんまり好きじゃなさそうだしさ。ねぇ、気分転換に食堂行こうよ」
「しょく、どう?」
「今期間限定のフルーツパフェがあるらしいよー」
「何かカップル割もといコンビ割があるんでしょ?」
「坂木と寒川が一緒に食べたって言ってたー」


あの二人従兄弟なのに仲良過ぎない?、ねー、などと自分たちの親衛隊隊長について語る双子は楽しそうだ。
今まで親衛隊とあまり接してこなかった生徒会役員も、今やこうした他愛のない話までするようになった。
これも、全て神山のおかげであろう。


「一般生徒たちに仲良しアピールするにも良いんじゃないかな?」
「副会長と神山も呼んでさー。僕と海、副会長とナオっち、会長と神山で」
「皆、なか、よし」
「…そうだな、たまには良いか」


息を一つ吐き立ち上がった間宮に、やったーとハイタッチし合う双子と大塚。
こうした和気藹々とした雰囲気は久し振りであるし、神山と仲直りするきっかけにも良いと思ったのだ。
まぁ、カップル扱いしてもらえたら嬉しいという下心もあるのだが。


「優馬はいつもの二人と校舎外に出て行った姿が目撃されてるから、暫くは食堂に来ないと思うよー」
「副会長にはメールしとこっか。電話の長い音で優馬に気付かれたとか冗談にならないし」
「じゃあ僕は神山に電話しよー」


双子が各々連絡を取る。
すると戸高にメールをした海は上手く送れたようだが、神山に電話をしていた空が首を傾げた。


「神山出なーい」
「喧嘩中の会長ならまだしも、僕らからの電話取らないなんて神山司ってばー」
「軽く俺をディスるな」
「えへへー」
「神山にもメールしとこ。遅くなるようだったら、僕ら四人でコンビ割すれば良いしー」


そうしようそうしよう、と双子は声を合わせて頷く。
神山にもメールをし終え、間宮と大塚、空、海は食堂へと向かった。


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