【霞桜学園】

□第一章
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昼休み前、俺は昨日間宮に言われた通り生徒会室前に着いた。
何をしてほしいんだか分からないままノックして、ささやかな反抗として返事を待たずに扉を開けて……絶句した。
そこには、昨日と同じレベルで荒れた生徒会室の姿と、机に向かう間宮の姿があった。


「なんだ、これ……」
「神山、来たのか」
「っ、間宮!! どういうつも…ッ」
「待て、誤解すんな。汚したのは俺じゃねぇ」
「じゃあ、誰が…」
「それを今から見せてやる。行くぞ」
「何処に」


眉を潜めて問うと、間宮はチャイムと同時に。


「学食」


そう告げた。




学食に着いた途端、キャァァァァアアッ!! という耳障りな黄色い声。
それは俺の横の間宮に注がれていた。
流石抱かれたい男ナンバーワンだ。その黄色いというか黄土色の声を受けて平然としてやがる。
その内俺に気付いたのか、ざわざわとした音に変わってきた。
鬱陶しいけど、わざわざ睨むほどのことでもない。
害はないしな。
違う注目のされ方をしている俺たちは食堂の入り口から中へと足を踏み出す。


「で? 仲良く飯食おうってんじゃねーんだろ?」
「まぁな。仲良くなりたいなら他に手っ取り早い方法もあるし」
「死ね」


ふっと不敵に笑う間宮に絶対零度の目を向ける俺。
どんだけヤりてぇんだ、コイツは。
そこら辺の可愛い顔したチワワにでも頼め。
で、結局何なんだと尋ねようとした時。
食堂が、異様な雰囲気に包まれた。
黄色い声もなく、周りを見れば生徒たちは皆一点を睨んでいる。
その先には食堂に入ってきた、五人の姿。


「あいつらは……」
「あーっ!! 裕貴も来てたのかっ!」


俺の声が馬鹿デカイ声に掻き消された。
裕貴? と首を傾げ掛けて、生徒会長、つまり間宮の名前だということに気付く。
コイツを呼び捨てなんてどんな猛者だと目を向けると、此方に向かって突進してくる…マリモが目に入った。
マリモ。一言で、マリモ。
もっさもっさの髪に瓶底眼鏡着用。
すっげぇダサい。
でもプラチナに近い色の髪と翠の瞳が一瞬見えた。
変装…してんのか?
ソイツは間宮に走り寄って満面の笑みを浮かべる。


「来るんなら言ってくれよ! 俺も裕貴と一緒に来たかったのに!」
「そりゃ悪かったな。でもお前には慎也たちがいるだろ?」
「そうですよ、優馬」
「会長なんかいなくてもっ」
「僕らがいるじゃんっ」
「…………」


遅れて来たのは、王子副会長に双子書記に無口会計。
会計に至ってはこの場でも頷くだけ。


「裕貴ともっと仲良くなりたいんだ、俺っ!!」


顔を赤らめて言うマリモに、副会長たちは間宮を睨む。
つまり…昨日言ってた井川優馬ってのがこのマリモで、マリモにお熱らしいのが会長以外の役員、そんでマリモは間宮に好意的、と……だから何だって話だが。
ホモ展開なら余所でやれ、巻き込むな、と黙っていると、マリモの目がこちらに向いた。


「お前、カッコいいな!! 名前何て言うんだっ?」
「……神山」
「下の名前!」
「……司」
「司、一緒に食べよう!!」
「気安く呼ぶな」
「俺たち友だちだろ! 俺のことは優馬って呼んでくれ!」


にかっ、と笑うマリモに眉根を寄せた。
友だちって…なった覚えねーよ。
しかしあれよあれよと生徒会専用スペースに連れていかれた。
ここは生徒会以外立ち入り禁止じゃなかったか…?


「…俺はお前と食うつもりはねぇ」
「何でだよ!! 親友だろっ!」


親友? 会って五分で親友呼ばわりか、図々しい。
間宮は面白そうに上がった口元を片手で覆っていた。何とかしろよテメェ。


「優馬、彼は危険なんですよ」
「そうだよっ」
「僕らの優馬にっ」
「「近付かないでっ」」
「……あ、ぶ…な、い」


敵意剥き出しで俺を睨み付けてくる役員共。
ここまであからさまだと怒り通り越して呆れるな。バカにしか見えねぇよ。


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