短編

□December...
1ページ/1ページ




はぁ、と息を吐けば。

白い煙みたいになって、宙を舞い、すぐに消える。

冬の訪れを実感する、何でもない夜。

そんな何でもない夜に、彼女と二人。

1つのマフラーを2人で首に巻いて。








……









「ねぇ」

「…うん」



特に言うこともなく、発した言葉。

そのことは伝わったみたいで、同じように適当な返答。



そういえば。

いつからだろう。

こうやって、お互いのことが分かるようになったのは。



オーディションで出会って、夢を追うためにまずレッスンをして、やがて公演にも出れるようになって……。

気付けば隣にいたあなた。

仲間だけど、良きライバルとして。

一歩ずつ一歩ずつ、歩んできた。



時には悔しい思いもしたけれど。

辛くて逃げだしたくなったけど。

一緒だったから、すべてを乗り越えて来れた。




でも、あなたは今一段だけ上にいる。

たった、小さな一段だけど、その差は意外と大きくて。

『一緒』というには、少し距離があるのかもしれない。






だから、かな。

あなたが先にいるからこそ、支えたいなって思う。

確かに、一段の差に悔しい気持ちが全くないと言えば、嘘になる。


それと隣り合わせに歩んできた道だから。



だけど、今は。

同じ、いや、それよりも『支えたい』って気持ちが勝ってるから。




もし、そこから見える景色に戸惑いを感じるのであれば、素直に言ってほしい。

もし、そこから崩れ落ちそうなら、しっかり受け止めてあげる。



見た目では『一緒』じゃないのかもしれない。


だけど、気持ちではいつでも隣にいるからね。










強そうで、何でもこなせそうに見えるあなたを。

ほんとは、そんなに強くないあなたを。

微力かもしれないけど。

自分の支えになったあの人のように。

今度は、私が支える番。


だからね―









「あみ」

「…」

「大丈夫だから」











月がきれいな今日に。

星が輝いている今日に。

あなたの静かに流れるきれいな一粒の涙に応えるように。













あなたの手を強く握った。








end,,,

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ