短編集

□二人で一人、夜散歩
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これはとある学校の生徒とその担任の教師の間で起こったことでやんす。
それは夏から秋へ...暑苦しい夜から涼しい夜へ変わった午後9時頃でありやした。
その生徒は学校の周辺に住んでおりやして、窓を開ければすぐ学校が見える場所に自分の部屋がありやした。
いつものように自分の部屋で窓を開け外を眺めながら携帯をいじっていると、その生徒の目にある人影が移りやした。
見た事のあるような人と思い、目を凝らして見てみると自分のクラスの担任ではありやせんか。
少し大きな声を出せば気付いてもらえる距離ではありやしたが、ここは思いとどまって他の方法で気付かせ、驚かせようと思ったんだそうでやんす。
すばやく携帯を開き今や登録ユーザー数3億人にも達するコミュニケーションアプリ、LIN
Eを開きやす。
LINEはその教師もやっており、それでよく会話するんだそうでやんす。
その日もそうやってLINEでメッセージを送り、自分が今どこにいるか言って驚かせようという魂胆だったんでやんしょう。
さっそくその生徒はメッセージを送りやした。
『先生、今どこにいるんですか?』と。
そう時が経たないうちに返信は返ってきやした。
『え?今自分の家にいるよ』と。
『えぇ〜、嘘だぁ。学校の近くにいるでしょ』
と、生徒は送ろうとしたのでやんすがハッと何かに気が付き文字を打つ手を止めやした。
部屋の窓から見える教師の周りはさっきと同じ街灯の明かりしかありやせん。
貴方は分かりやすか?
携帯などの電子器具を取り出せば少なからずともそれを扱ってる本人の周りには昼には見えなくとも夜には微かな光が見えるんでやんす。
その光がその教師の周りには見えやせんでした。
辺りが暗い為、見間違いとは思いやんすが、その人は教師と同じ髪型、その日に着ていた服とまったく同じ。
見間違いとは思えやせん。
その生徒は気味悪がり、返信がない事を不思議に思った教師からの
『どうしたの?』
という事にも返信せず、その日はさっさと布団に潜りこんだそうでさァ。
翌日、いたっていつもどおりの先生だと思った生徒は教師に
「先生だと思った人見付けたんだけど人違いだった」
と笑いながら言ったんでやんす。
昨日の事をありのまま言うのは気が引けたんでやしょうね。
それから一週間が経ち、その教師がいつもより明るくなったのはその生徒にも気付かなかったそうでやんす。
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