【長編】真選組と桂小太郎
□一章 墓参りに金木犀
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「…どうしました?」
その人は俺と同じように編み笠を深く被っているから顔がよく見えなかった。
目の前にいる栗色の髪の毛に手が触れている。
指の間をさらりと髪が通り抜けて、ふわりと金木犀の香りがした。
頭が真っ白に飛んで身体中の感覚がなくなっていった。
「いや、い、きなり…呼び止めてしまってすまなかった。」
「いえ…」
どくん、心臓の音が跳ね上がる。
松陽先生、松陽先生の声を忘れるはずがない。
暗闇に取り残された俺達を光の先へ導いたその声を。
その言葉の一つ一つが身体に刻み込まれるたび、先生が教えてくれた事はどんなものでも真実に変わるのだろうとさえ思っていた。
「昔の、大切な人に似ていて…あの、失礼だとは思いますが顔を見せていただけますか」
「…はい、いいですよ」
白い手が編み笠の紐をほどくと、雨風に攫われて舞った。
「何で…」
そこに立っていたのは松陽先生だった。
「先生…?」
死ぬほど叫んで、声が枯れるまで泣きたいのに
俺の意識は遠のいた。