【長編】真選組と桂小太郎


□一章 墓参りに金木犀
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「あ、雨だ」
ぽつりと雫が目を伝った。
先程までは晴天だったのに、ここ最近のお天気さんは随分と気まぐれ屋さんだな。
ふふ、と一人でほくそ笑んだら鼻を垂らして飴を舐めてる子供にきしょーいと言われた。
スルメを噛み千切れる歳になったら出直してこい。小生意気なガキめ。

編み笠を深く被り、袈裟に身を包んだ桂小太郎は足を速める。
ここ最近、妙な事件が勃発しているせいでいつも以上に真選組に用心しなければならない。
それも「長髪のべ、べっぴんの人斬り」という曖昧な情報だけで俺が犯人だと決めつけるとはな。
…嬉しくない!俺は断じて全然嬉しくないぞ!!
男にべっぴんなどとは侮辱だからな!

このような非常事態の時は裏の裏の裏をかいて(あれ戻った?)人混みの多い所を通った方が良い。
バカな真選組は所詮、俺の足の裏は何サイズだくらいしか読めない。答えは25、5センチだフハハハ
先程から妙に尻や太腿を掴まれている気がするがこれだけ人が多いのだからまあ、ぶつかるのだろう。
いたしかたない。

しかし…何処かに事件が解決するまで籠っていれば良い事を、
今日だけはそういう訳にはいかなんだ。
今日は…

「!!」

何だ。
一瞬、春の風が吹いた気がした。
桂は編み笠から素早く顔を上げたがその風はもう何処かへ去ってしまったかのように感じた。
けれど。
雨の匂いに混じり、仄かに香る金木犀。
懐かしい、
先生の好きだった花

桂は無意識に後ろを振り返っていた。

たった今すれ違った優しい髪色をした人は誰だ。
先生と同じ羽織を着ているあの人は誰なんだ。
誰なのか。 

「…待ってくれ…ッ!!」

押し潰したような声が漏れて、その人の元へ駆けている自分がいた。
頼む、消えないでくれ
顔を見るまで、辿り着くまでは儚い希望をみさせてほしい。
あり得ない、先生のはずはないのだから。

桂の頬に雫が伝った。
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