精霊の欠片
□負けず嫌いの君
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やっと状況を理解し、山程出てきた聞きたいことを取り敢えず脇に置いておくことにした。そして、ポケモンバトルへ思考のベクトルを向ける。
プラターヌ博士とのポケモンバトル......!
リアは腰につけた4つのボールを見る。
ファリスが頭の上でもそもぞと動いているのは、バトルをしたいという現れなのだろうが......
やっぱり、ここはこの子だよね。
そっとそのボールに手を掛けると、応えるように揺れた。
それを見ていたらしいファリスは、見なくても分かるほどに、頭の上でぐったりと力を抜いている。
バトル出来ない事に落ち込んでいるだろう彼女に、ごめんねと声をかける。
『ぶぅい......』
「今回だけはお願い。ね?」
拗ねてしまったファリスの頭を撫でると、ボールを手に取り、プラターヌ博士に向き直った。
「ポケモン勝負、始めちゃうかい?」
「お願いします!」
「いっておくけど、ボク強くないからねー!」
ボールを投げたり取ったりを繰り返していたプラターヌ博士がボールを投げてポケモンを繰り出す。
出てきたポケモンに図鑑を向けると、フシギダネというらしかった。
『ダネダー!』
「フォル!」
『フォコ!』
図鑑によると、フシギダネは草タイプらしいので、フォルとの相性は抜群である。
フォルがバトルフィールドに出てくると、プラターヌ博士は嬉しそうに笑った。
「ああ、フォッコか!なんだか逞しくなったね!」
博士に、この数日で強くなった彼の成長を是非見て欲しい。そう思ってフォルを出したのだ。
フォルもやる気満々でフシギダネと対峙している。これはいつものことだったりするのだが。
「それじゃあいくよー!フシギダネ、つるのムチ!」
それなら、ミアレに来るまでに覚えたこの技で......!
「フォル、ニトロチャージ!」
『ッコ!』
リアの指示に合わせて赤い炎を纏ったフォルは、つるのムチを向けてくるフシギダネに突っ込んでいく。
途中でムチがフォルを跳ね飛ばそうとしたが、炎に弾かれていた。
『ダネっ!?』
フォルのニトロチャージはそのままフシギダネに命中し、部屋の隅にはじき飛ばされた。
ぐったりと目を回している様子からすると、戦闘不能だろう。
まさか一発でそうなるとは、リアも予想していなかったが......。フォルは相当、気合が入っているらしい。
プラターヌ博士もその様子を見てフシギダネをボールに戻した。
次のボールを手にし、リアに向き直る。
「次はこの子でいくよー!」
放たれたボールから出てきた、亀のようなポケモンに図鑑を向ける。
ゼニガメ、水タイプ......!
図鑑の情報から、フォルとの相性が悪いことを知る。フォルもそれは承知しているだろう。
でも......交代するつもりはない。このバトルは出来るだけ、フォルのみで戦いたかった。
「フォル、いける?」
『フォッコ!』
「交代はしないんだね?」
「はい!フォル、遠吠え!」
今度はリアが先制し、フォルの攻撃力をあげる。相性が悪くとも、技を出来るだけ受け流しながらダメージを与えていけば、なんとか勝てるはずだ。
「ゼニガメ、しっぽをふるだ!」
「ひのこ!」
やけどになれば、さらにダメージを積み重ねなれると思ったが、そう簡単には行かないらしい。そんなに効いていないようだ。
「やっぱり炎技だと難しいかぁ......」
しっぽをふるで防御力も下げられてしまった。物理技も出来るだけ避けた方がいいだろう。
そうすると、なかなか接近戦は難しい。
でも、フォルの技の中で最も威力が高いのはニトロチャージだ。相性が悪くても、これは変わらない事実。
一か八かで突っ込んでみようか。
「ゼニガメ、みずでっぽう!」
「しまっ......!」
『フォコ!?』
次の手を考えていたため、気がそれてしまっていたようだ。その隙を突くように、ゼニガメからみずでっぽうが放たれ、フォルに命中する。
自分の失態だ。今はバトルの途中なのに目を離してしまうとは......。
「フォル、ごめん。大丈夫?」
『ッコォ!』
先程よりは辛そうだが、問題なくフォルが立ち上がる。
うん、まだいける。
「もう一度ひのこ!」
『ゼニっ』
フォルがその場から飛び上がり、ゼニゼニに向かったひのこを降らせる。
回避できずにそれを再びくらったゼニガメは、膝をついた。
「やけどか......ゼニガメ、みずでっぽうだ!」
「よけて!」
膝をついたゼニガメは直ぐに立ち直り、空中から着地したばかりのフォルにみずでっぽうを繰り出す。
リアの指示にフォルはそれを避けようとするが、少しかすってしまったようだった。着地地点から少しずれたところで体制を立ち直し、再びゼニガメの前に立ちはだかる。
「ニトロチャージ!」
やけど状態でゼニガメに隙ができたところに、技を指示する。
確か、やけど状態になるとダメージを与える他に攻撃力を下げる効果もあったはず。それなら、防御力を下げられる前と同じ状況になるはずだ。
やけどの痛みで動き出しが遅れたところに、フォルの攻撃が命中する。
『ゼニィ!』
「ゼニガメ!」
技の威力を受け止めきれずに後退したゼニガメは、プラターヌ博士の足元で力尽きた。
もしかしたら、急所に当たったのかもしれない。
「ゼニガメも戦闘不能か......やるね!」
「フォルが頑張ってくれたからです!」
労いの言葉をかけながら、プラターヌ博士がゼニガメをボールに戻す。
相性を超えて勝てたことが嬉しく、思わず声が高ぶってしまった。だが、それも博士が次のボールを構えたことで正気に戻る。
「これが最後のポケモンだよ!」
『カァゲ!』
ボールの開閉音と共に出てきたのは、戦意に満ちた目をしたオレンジ色のポケモン。
図鑑によれば、ヒトカゲというらしい。炎タイプだ。
フォッコと同じ、炎タイプ。
フォルも大分消耗している。これはそろそろ交代も考えた方がいいかもしれない。
「フォル、大丈夫?無理しなくていいからね」
『フォッコ、フォコ!』
どうやら、まだ戦えると言っているらしい。
やる気満々のフォルが、ヒトカゲ相対するように構えた。
「ヒトカゲ!ひのこ」
「こっちもひのこ!」
ヒトカゲとフォルのひのこがぶつかり合い、相殺される。
これではいつまでたっても終わらない。互いに消耗していくだけだ。そうなれば、フォルの方が先に倒れるのは、想像に難くない。
フォルをじっと見つめながら考える......どうすれば勝てるのか。
ふと、フォルがちらりとこちらを見た。と思うと、リアの指示がないにも関わらず、急に動きを見せた。
『フォコー!』
前足を踏ん張るように構えると同時に、フォルから光線が放たれる。
それはヒトカゲの不意をついたようで、見事に命中した。
「サイケこうせんか!」
プラターヌ博士が弾んだ声でそういう。リアが慌てて図鑑をフォルに掲げて確かめると、確かに、新しい技を覚えていた。
視線をフォルに移すと、彼はこちらを振り向いてどうだ!とでも言いたげな顔で頷いた。
これなら、いけるかもしれない!
「フォル、サイケこうせん!」
「よけるんだ!」
ヒトカゲが博士の声に素早く反応して、よけるが、リアはそれを逃さない。
「そうだと思いました!フォル、ニトロチャージ!」
『フォコォ!』
サイケこうせんをしたと同時に走り出していたフォルが、そのまま炎をまとってヒトカゲに超激する。
「なっ!?」
『カゲっー......』
フォルがニトロチャージの勢いでリアの目の前に戻ってくる。それを横目に見ながらヒトカゲを見れば、目を回して倒れていた。
「や、やった!やったよフォル!」
『ぶぃっ!ぶいぶい!』
バトル中ずっと静かだったファリスも、フォルが勝利したことを素直に喜ぶ。
リアはフォルを抱き上げると、ぼさぼさになった毛並みを撫でて整えた。飛んでしまいたい程に嬉しかった。
「いやー、まいったなー、すごいじゃないか!!」
プラターヌ博士が、ヒトカゲをボールを手にしたままこちらに歩いてくる。
リアもそれに気づき、フォルを抱えたままペコリと頭を下げた。
「ありがとうございます。とても楽しかったです」
「それはよかった」
柔らかく微笑んだプラターヌ博士はその場で、バトルで消耗した3体を回復させていく。
リアもフォルを回復させていると、サナとカルムのバトルも終わったらしく、話し声が聞こえてきた。
「リーアりん、久しぶり!」
「ひ、久しぶり?」
とりあえず返したが、まだ別れてから数日も経っていないような気がする。
どちらにしろ、返し方が分からないので無難な答えになるだろうが。
カルムの方は何やら難しい顔をしてブツブツとつぶやいているが、気にしないことにした。
「なんでお隣さんだけ......」
それは、彼の口から発せられている断片が耳に入ったとき、不快な思いがしたからであった。
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