精霊の欠片
□最初の試練へ
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「ちょっと君!」
「......」
「君だってば!」
「わぁ、!私ですか!?」
後ろから声と同時に、しゃーっと何かが滑ってくる音が聞こえたかと思うと、左肩に重みを感じた。
予想だにしてなかった事なので、必要以上の驚いて大きい声が出てしまった。恥ずかしい......
振り返ってみると、見覚えのある服装の人がリアの肩を掴んでいた。
「あ、あの時の人......」
「あれ、どっかであったっけ?」
彼女の出で立ちをみて、すぐに思い出した。
確か、この町に入る直前に、物凄い勢いで通り過ぎていった人だ。
あんなスピードで移動していたら、一々通行人のことなんて気にしている余裕などないだろう。記憶にないのは当たり前だ。
「まあ、いっか。で、君!」
「はい?」
「君、ローラースケート持ってないの?」
「え、持ってないですけど......」
「やっぱりか〜」
いきなりなんなんだこの人は。旅を始めたばかりの人にローラースケート持ってるかなんて、持ってるはずなかろうに。
少し訝しげに思っていると、ローラースケートのお姉さんが「よし!」と、何かを決断したように頷いた。
「あたし、バトルが好きなんだ!買ったらローラースケートわけてあげるよ!」
「えっ......?」
「ローラースケートで駆け抜けるのって気持ちいいの!君にも味わってもらいたいんだ!」
「は、あ......」
なんか、どんどん話しが進んで勝ったらローラースケートがもらえるみたいなことになっているが、正直、ローラースケートなんてやったことがないものだから、もらっても使えない。
断ろうかどうしようか悩んでいるが、向こうはやる気満々らしい。
ここで断るのも、相手に申し訳ない。リアは盛大にため息をついた。
*****
「で、結局こうなっちゃったけど......」
リアの両手には真新しいローラースケートが乗せられていた。
ジム戦前の確認でフォルにバトルに出てもらい、結果、勝ってしまったのだ。
ローラースケートのお姉さんはご丁寧にローラースケートの使い方を説明してくれたあと、「君、ジムリーダーより強いかも!」なんてお世辞まで行って去っていってしまった。
「どうすんのこれ......」
とりあえず鞄の中に入れ、22番道路をとぼとぼと歩く。
『コォ......』
フォルまでなんだか暗い気分にさせてしまったらしい。これではいけない。
ごめんと言いながらフォルの頭を撫で、気合いを入れ直す。
「よし、サイホーンレースをすぐそこでみれるみたいだし行こう!」
『フォコ!』
サイホーンレース場に近づいていく度に、実況者の声が途切れ途切れきこえてきて、ざわめきが大きくなってくる。
わざわざ、場内に入るつもりは無かったので、外側から様子見を伺うことにした。
「わあ!」
『フォッコ〜!』
サイホーンレースのコース脇に建てられた柵に張り付き、開催中のレースをのぞき込む。
レースも終盤に入ったところで、適度に盛り上がった場内から歓声が溢れていた。
なかなかの迫力だ。
「サイホーンって、以外と速いんだね」
『コォ』
サイホーンなは失礼だが、もっと鈍臭いと思っていたので、妙に感心してしまう。
まだ少ししか見ていないのだが、既にレースの終盤であったため、ゴールも間近になって来た。
最後の追い上げとばかりに、サイホーン達がスピードを上げていく。それに伴って歓声も大きくなっていった。
「もうちょっと早く来ればよかったな」
『フォコー......』
先程のバトルが無ければ、中盤あたりから観ることが出来たかもしれないと思うと、残念な気持ちになっていまう。
次々とゴールしていくサイホーン達を何となく見ていると、不意に鞄の中の何かが動いているような気がした。いや、動いている。
原因を鞄から取りだすと、それはファリスのボールだった。
やっと、起きたらしい。出して出して、とでも言うようにボールが揺れていた。
しっかり寝たから、元気が有り余っているようだ。こっちは朝から中々に大変だったのに、全くお構いなしである。知らないから仕方ないが。
カタカタと揺れるボールのロックをはずすと、途端にファリスが飛び出してきた。
『ぶい!』
寝起きの伸びをして、その場に座る。十分に寝てすっきりしたようだ。
「おはよう。遅いお目覚めだね」
『ぶいぶいー!』
「目は覚めた?」
『ぶいっ!』
やる気満々といったところだろうか。苦笑を漏らして彼女を撫でる。
こうしている間に、レースは終わってしまったらしい。結果見なかったなと思いながらも、リアは立ち上がった。
「ファリスも起きたし、ちょっと調整しようか」
『ぶい!』『フォッコ!』
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