精霊の欠片
□霞んだ過去
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ひやりとした風が頬を撫でる。
それに神経を刺激されたリアはゆっくりと瞼を開けた。
「ここは......」
片肘をついて起き上がってみる。辺りを見渡してみれば、どことなく見たことのある景色が広がっていた。
見渡す限り、木。様々な種類の植物たちがそこかしこで生き生きとしている。
リアは自分がなぜこんなことになっているのか、なぜこんな場所にいるのか思い出してみた。
......確か、自分はコフキムシに体当たりされて、さらにバタフリーの眠り粉をくらったはずだ。
ということは、この森のど真ん中で自分は眠っていたということになる。
不注意にも程がある。なんとも情けない......またメテオに叱られそうだ。
しかし、周りにはいるはずのポケモン達の姿は見受けられない。思えば、寝てしまう前にいた森とは少し違うようだ。
こんなひやりとするまで澄んだ風は吹いていなかったし、あんな植物も生えていなかった。
なにより、ポケモン達もいない。勿論、自分の手持ち達でさえも。
鞄もなければ、腰のモンスターボールもない。一体どうなっているのだろうか。
「なんなんだよもう......」
はぁ、と一度深い溜息をつき、立ち上がる。
体に異常は無いみたいなので、とりあえず周囲を歩き回ってみることにした。
だが、歩けば歩くほど、微かにあった違和感が膨れあがってくる。
さっきまでいた森ではないことは分かる。しかし、何故かリアはこの知らないはずの場所にいるという現状に、不安を感じることはなかった。
それは、いま感じているこの雰囲気に、懐かしさを感じている自分がいるからかもしれない。
もう一度、辺りを見渡してみる。
よくよく考えてみれば、この空気も、この静けさも、この風景も、全てが慣れ親しんだものだった。違うと言えば、かつての仲間たちがいないことか。
しかし、もしここが故郷の森であるとしたら、さっきの場所から一瞬でこれるような所ではないはずだ。
だとすれば、結論はこうなるだろう。
「これは......夢なのかな」
ぼそりと呟いてみる。その声に応えてくれるものはない。その場で響き、掻き消える。
夢であることには間違いないだろう。
しばらく歩いていると、建物が見えた。
それも、よくよく見慣れたもので。
「私の家......?」
駆け寄ってみる。その家をまじまじとみれば、なんだか最後に見た時よりも新しいようだった。
ふいに、誰かの声が聞こえてきた。楽しそうな、笑い声だ。子供特有の高めの声。
「誰だろう?」
気になる。
家の壁をつたって、こっそりと声のする方へ近づいてみた。
そっと覗けば、小さい女の子と男の子。それと、銀色の毛並みを輝かせる2体のイーブイ。くるくると追いかけっこをしている。それを見る二人と二匹は、楽しそうに笑いあっていた。
見覚えのある風景にリアははっと目を見張った。
見覚えのあるなんてもんじゃない。これは、幼い頃の自分だ。ということは、この夢は自分の記憶なのかもしれない。
懐かしさに目を細める。思わず顔がほころんだ。楽しかった記憶がなんとなくリアの心を暖かくした。
じっとみていると、一匹のイーブイと目が合った、ような気がした。
その表情はとても......寂しそうな顔をしているように見えた。まあ、思い込みかもしれないが。
一気に、現実に引き戻される感覚に陥る。
様々な感情が雪崩のように押し寄せた。
気づかぬうちに、思い出したくないと、必死に自分を押さえ込む。
「っ......ミーア」
耐えられなくなりそうで、そう声を漏らしたとき、グラりと視界が揺れ、景色が掻き消えた。
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