精霊の欠片

□自信をもって
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「ぅ……」


うっすら目を開けると、仄かな光が感じられた。体を起こして周りを見れば、皆床に丸まって寝ている。
ファリスなんかは、いつもベッドに潜り込んでくるというのに。珍しい。

立ち上がって締め切ったカーテンを開ける。ちょうど橙に輝く太陽が顔をのぞかせていた。あっちは東だから朝日で間違いない。


「……あれ」


さて、今日は何をしようかと考えたところで、ふと違和感に気づいた。
昨日のことをまるで覚えてないのだ。


「昨日、何したんだっけ」


だが、いくら考えても思い出せない。不思議な感じだが思い出せないものはどうしようもないため、とにかく旅の再開準備をすることにした。
そろそろミアレを離れようと思ったのだ。

それにしても、昨日の今日で何も思い出せないなんて……ボケたか。まだ14歳だというのに。

ポケモン達の朝食の準備していると、背中にふわりと暖かい感覚がした。この感じは、メテオか。
まあ、準備といっても皿とフーズを出すだけだ。手を止めてそちらを向く。


「おはよう、メテオ」

『ソル』

「今日から旅を再開しようと思う。気を引き締めていかないとね」

『……』


メテオはコクリと頷いて反応を返した。
そんな彼女の前にフーズを出しておく。
そうだ、皆が食べ終わり次第、出発することにしよう。
そうとなれば、自分も早く準備しなければ。と、まずは洗面所へ向かう。

そして、鏡を見て自分で驚いた。


髪の毛が、ない!!


あれだけ伸び放題だった髪の毛が、ない。ふわふわと触ってみても、ない。頭が軽い。

あ、思い出した。昨日は美容院に行ったのだった。よかった、まだボケてはいないようだ。
まあ、他に何をしたとか、何食べたとかは全然思い出せないわけだが。きっと、その後もたわいも無く過ごしたのだろう。まさか散髪だけで丸1日潰すわけでもあるまいし。





そんなこんなで、5番道路に来た。旅再開だ。

因みに、今日から頭に乗るのは禁止にすることにした。理由を言えば、折角買ってもらった帽子がかぶれないからである。帽子の上からファリスが乗れば、帽子が潰れてしまう。そんなことはしたくない。
というわけでファリスは今、非常にぶすくれて腕の中に収まっていた。

ファリスには申し訳ないが、こればっかりは許してほしい。

バトルでもすれば、ちょっとは機嫌を治してくれるだろうか……それとも何か木の実でも、と思った時だった。


『メェー!!』

「うわぁっ!?っだ!!」

『ぶっ!』


左の草むらから、緑っぽいなんかが出てきた。
慌てて避けようとしたが、焦ったせいか足がもつれ、そのまま尻もちをつく。
ファリスは腕からスルリと抜けて華麗に着地していた。すごい。すごいが、なんだか腹が立つ。
そして、緑っぽい何かは右の方に走っていったが、何だったのだろうか。

とりあえず誰も見ていなくて良かった、と立ち上がって、着いたホコリを払う。
全く、旅再開初日からついてないな。


「まって、メェークル!!あっ!」

「うぇっ……!?」


さて、行こうと思って前を向けば、今度は横から突き飛ばされた。
完全に油断していたため、受身も取れず地面に倒れ込んだ。控えめに言ってめちゃくちゃ痛い。

本当に、なんなんだ今日は……。


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか……?」


女性特有の高めの声だ。
どうやら彼女にはこの有様が無事なように見えるらしい。なんということか。

だが、ここで「大丈夫なわけない!」と怒っても、状況が悪化するだけだと思う。ということでなんとかイライラを抑えて「お気遣いなく……」と返しておく。

本当は痛い。すごく痛い。具体的にいうと、突き飛ばされた左の腰と、地面にぶった右の肩と骨盤が痛い。あと、尻餅もついたからお尻が全体的に。

さっさと逃げたファリスも、流石に同情するらしい。近くによって来て、耳と尻尾をしょんぼりとさせている。

君は悪くない。悪くないよ。自分だけこんなに被害をかぶるのは理不尽だと思うけども。

痛みが引くまで動きたくはないが、いくらなんでもずっとこの体勢でいるわけにもいかない。痛みを堪えてなんとか上半身を起こした。

後ろに手をついて立ちあがろうとすると、すっと目の前に手が差し出された。勿論、彼女がである。
払うのも失礼なため、ありがたくその手を借りる。


「ありがとうございます」

「いえ、あの、本当にごめんなさい。ポケモンを追いかけていたとはいえ、人を突き飛ばしてしまうなんて……」


立ち上がってから再びホコリを払う。舗装された道だから、痛いのは痛いが、汚れはあまりつかなかったようだ。いいんだか、悪いんだか。

さて、どうしようかと彼女を見れば、その視線がこちらの顔にじっと向けられていることに気づいた。


「あの?」


声をかけてみると、彼女ははっと我に返ったようだった。恥ずかしそうに顔を赤らめ、視線をキョロキョロさせる。終いには俯いてしまった。


「いえ、その、綺麗な色の目だなって……えっ
と、羨ましい、です」

「あ、それは、どうも……」


ぼそぼそと控えめにつぶやかれた言葉は、なんとも予想外の言葉でコチラの方がたじたじになってしまった。

自分の目は、母譲りの鮮やかな青だ。
青い目の人などあちこちにいるから、気にしたこともなかった。だが、こうも面と向かって言われると、なんだか照れくさいものだ。

お返しに彼女の目も覗き込んでみる。一般的な茶色の目のようだ。
ついでにいうと、その髪は長く、金髪に近い。顔立ちも綺麗な子で、自分と同じくらいの歳に見えた。


「あの、私、ネルといいます。あなたは?」

「リアです」


彼女が名乗ったので、こちらも名乗る。すりすりと足に擦り寄ってきたファリスを抱き上げて、彼女の言葉を待った。だが、何か言いたそうにうつむいたまま、何も言う気配がない。

しばらくそうしていると、か細い声で「あの」という声が聞こえてきた。


「リア……さんに、色々とご迷惑をかけたこと、本当に申し訳なく思ってます。さらに迷惑を
かけるようなこと、本当はしたくないのですが、その、お願いが、ありまして」

「……お願い?」

「はい!リアさんがよろしければ、コボクタウンまで一緒についてきて欲しいのです。私、その、バトルもあんまりできないから、捕まえることもできないし……。野生のポケモンが襲ってきたらと思うと、怖くって」


いきなり、今知り合ったばかりの人にお願いなんていうものだから、構えてしまった。
が、なるほど!そういうことか。

自分の時は怖いなどとは思わなかったから、分からないが、普通の人はそういうものなのかもしれない。怖いまで行かなくとも、不安ではあるだろう。

先程のものは、頑張ってゲットしようとしたが、逃げられてしまったといったところだろうか。

誰かが頑張ってる姿というものは、応援したくなるものだ。それは、勿論自分も当てはまる。そして、初々しい彼女の様子はそう思わせるには十分だった。

手を貸したいと思う。
しかし、それは彼らが賛同してくれたらの話だ。

すっと、腰につけたすべてのボールをなでるように手をすべらせる。
ファリスとも視線を合わせた。

ボールは嫌がる動きを見せなかった。ファリスもこくりと頷いてくれる。


「いいですよ。私もこれからそこにいくので」

「ほんとですか!?ありがとうございます!!」


彼女は俯けていた顔を上げて顔を輝かせた。

こうして、コボクタウンまでの彼女との旅が始まった。色々、教えてあげたいと思う。





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