精霊の欠片
□負けず嫌いの君
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「すみません!寝坊してしまって......」
「大丈夫ですよ」
こんな時まで寝坊する自分が恨めしい。
ファリスを頭に乗せたリアが慌ててポケモンセンターから出てくると、そこには昨日出会った先輩達......デクシオとジーナが待っていた。
昨日、ミアレシティに着いてからすぐにポケモンセンターに案内され、午前九時頃に迎に来ると約束をしたのである。
したのだが......寝起きの悪いリアは、いつものごとく寝坊し、メテオにたたき起こされ、待ち合わせの時間に1時間遅れるといる失態を犯したのだった。
バツの悪そうに二人の顔を見ると、苦笑を漏らすデクシオに、あきれ顔のジーナが。リアはその二人の表情を見てさらに顔を曇らせる。
全然大丈夫な雰囲気には見えないのですが......。
「さあ、博士が待っています。早く行きましょう」
「はい」
デクシオがそう促し、先を歩き出した二人の後を昨日と同じように肩身の狭い思いで歩いていくのだった。
*****
二人が立ち止まったその建物は大きく、リアは思わず見上げ
基本、ミアレシティの建物は大きいのだが、他のビルとは違った雰囲気の建物に目を奪われてしまう。
「この建物がプラターヌ ポケモン研究所。さあ、入りましょ!」
急かすジーナの言葉に従い、きょろきょろとしながらも研究所に入る。
青系で統一された広いロビーには受付の女性が一人。そして、入り口から真正面にはエレベーターがあった。
きょろきょろとするリアをしびれを切らしたジーナが、エレベーターの前までリアを引っ張ってくる。
「博士は3階でお待ちかねよ」
「わっ、はい」
ジーナに背中を押されてエレベーターに乗り込んだリアは、扉の閉じる前言われた3階のボタンを押す。
到着するまでの僅かな時間が、緊張からか長く感じられる。そわそわと落ち着かなかった。
ファリスが大丈夫だと言いたげに、リアの額をペしペしと叩いた。
チン!という音と共に扉が開く。
「やあ!やっと会えたね」
降りたと同時にかけられた声に、リアは必要以上に反応し、肩をこわばらせた。
「え、えっと......」
『ぶーい』
「そんなに緊張しなくていいよ。よし、こっちにおいで」
エレベーターから降りてすぐに固まって目を泳がせるリアを、ファリスは無邪気に叩く。
多分、緊張をとこうとしてくれてるのだと思う。多分。
ファリスの行動を放っておくことにしたリアは声をかけてきた男性を見た。この人が、例のプラターヌ博士なのだろうか。
とりあえず、今はこの人の言葉に従って素直に着いて行く。
歩く度に揺れている白衣の裾をなんとなしに見ていると、いつの間にか部屋に着いたらしい。彼は突然くるりと振り返った。
そこでぼーっとしていたことに気づき、慌てて顔を上げる。彼はリアを微笑みながら見つめていた。
この部屋には彼と自分しかいないので、きっと彼がプラターヌ博士なのだろう。
「紹介が遅れたね。ボクがプラターヌ!君はリアちゃんだね?」
「えっと、はい。遅くなってすみませんでした」
やっぱり合ってたらしい。まあ、当たり前か。
遅刻してしまったことを深々と頭を下げて謝る。
思ったよりも若いなー、と思いながら体を起こし、彼を見上げた。
博士と言うくらいだから、もっと堅苦しい感じの人か、だらしない感じの人かと思っていが、どちらも当てはまりそうになさそうだ。
「どうかな?カロス地方での旅は」
どう......と言われても、まだ旅に出てから三日目なんだけども。
けど、強いて言うならば......
「綺麗で、なんだか温かいです」
上手く言葉で表せないが、そんな感じだ。
空から見た時も、美しい地方だなと思っていた。ここを旅するんだと思って心が踊ったものだ。
アサメタウンからミアレシティに来るまでも、花がそこかしこに溢れていて、心が癒されるようで......。トレーナーの人達も、見ず知らずの人に道具や木の実をくれたり、ポケモン思いの優しい人ばかりだった。
イッシュにいた時には、人の温かさはもう少し感じ取りずらかったのである。
「そうか!旅は楽しいみたいだね。ポケモン達とも沢山出会えたかな?」
「はい」
リアの答えに嬉しそうに笑ったプラターヌ博士は、図鑑をチェックさせてくれるかい?と手を差し出してきた。
その手に図鑑を渡すと、博士は手早くチェックを始める。
「うんうん、順調みたいだ」
満足そうに頷いた博士は、図鑑をリアを渡す。
「リアちゃんはフォッコを選んだのかな?」
「あ、はい。選んだというか......選ばれたというか......でも、今では大切な仲間です」
『ぶいぶっ!』
フォルとの出会いを思い出しながら、苦笑気味にそう答えると、ファリスも同意するように前足をあげた。
「それは良かった!フォッコも君と会えて良かったんじゃないかな」
「そうだといいんですけど......」
自信なさげにそうつぶやくと、ファリスが尻尾をリアの後頭部で動かした。毛先が首筋に当たってくすぐったい。
博士はそれを微笑ましく見ながらも、言葉を続ける。
「ポケモンを託すメンバーを選ぶに当たって、一つの町から一人ずつ......そう考えていたんだよね。アサメタウンなら、知り合いのベテラントレーナーのお子さん」
カルムの親と博士は知り合いなのか。
なら博士はエナと知り合いだった、ということになる。そうでなければ、自分が選ばれることはないからだ。
「で、旅に出る日の前日の夜、エナから連絡が来てね。君のことを知ったんだ」
「ぜ、前日の夜!?」
「そう。しかも、メールでね。ボクももう少しで見逃す所だったよ」
ははっ、と困り顔で博士が笑う。
エナさん、そんな無茶なことプラターヌ博士にしてたのか......。
自分が頼んだわけではないが、エナとプラターヌ博士のおかげで、カロスで友達もできた。1人で旅をするよりも、きっともっと楽しいものになっているはずなのだ。
だから、エナとプラターヌ博士には感謝している。でも、無茶を通してもらった感じで、申し訳ない気持ちもあった。
何も言おうか迷って、結局何も言えずに俯いてしまう。そんなリアの両肩をプラターヌは元気づけるように掴んだ。
「君が重荷に感じることはないよ」
「!」
「きみはカロス地方のことを知らない......そう考えると、グッと来てね!ボクも賛成だったんだよ」
その言葉に、パッと顔を上げてプラターヌ博士を見る。また何か言おうとして口ごもっていると、壁越しにエレベーターの開閉音が聞こえた。
お客様かな......?
プラターヌ博士がリアの肩から手を離し、リアも部屋の入口に顔を向ける。
「博士ー、サナです!」
そう叫ぶ声も聞こえ、リアはさっきの思考は全て吹き飛ばされた。
まもなくしてサナとカルムが部屋に入ってくる。
「遅くなりました」
「あっ、リアりんだ!先に来てたんだねー!」
「う、うん」
2人に会うのは、ハクダンの森以来だ。かなりマイペースで旅をしていたはずなので、この二人はすっかり先に行っているものだと思っていた。
だが、まさかここで会えるとは......。
リアは、今の状況が上手く整理できずに、顔をしかめる。そんなリアの思考の中に、プラターヌ博士の言葉が横槍を入れてきた。
「よーし、二人ともきたし、みんなでポケモン勝負だよ!リア、君の相手はこのプラターヌがするよー」
「......ええ!?」
サナとカルムがここに来たことに驚いていたリアは、プラターヌ博士の言葉をなんとか拾って、更に驚く。
がばっと後ろを振り返って博士を見ると、2人が来る前と全く変わらない笑顔であった。
博士とバトルなど、全く予想してなかった。
ポケモン達は回復させてきたので、いつでも戦えるのだが......。如何せん、リアは驚きの連続から、状況を整理しきれていなかった。
率直にいうと、思考が混ざりあっていてバトルどころではないのだ。
「は、博士」
「なんだい?」
「ちょっと考える時間もらえますか」
「どうぞー。バトル始める時、声をかけてね」
「はい......」
そんなやりとりをしているうちに、サナとカルムはもうバトルを始めたらしい。騒がしい音が部屋に満ち始めていた。
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