精霊の欠片

□花園の迷い子
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リアは現在、目の前にある危険を避けるために必死だった。

今すぐにでも攻撃しそうな構えを解かないファリスに、たじたじになりながらも話しかける。


「お、おはよう」

『ぶい』

「お、起きたよ?私」

『ぶーい』

「ごめん、何......?」

『ぶいぶー!』

「お願いだからその構えを解いっ、ぐぇっ」

『『......』』


何故か鳩尾に体当たりされたリアはやっと起きたベッドの上でくずおれた。

何故こうなった?
自分はちゃんと起こされる前に起きたはずだ。体当たりされる筋合いはない。

痛さにぶるぶる震えながらもベッドの下でそっぽを向いているファリスを見る。

その奥には、後ろを向いて見ていない聞いていない振りをしているように見えた。

なんだかお怒りのようだ。心当たりがないのだが......

ふと、時間が気になり、なんとかベッドから立ち上がって時計を見る。


「!?」


2つの針はもう少しで12にさしかかろうとしていた。

完璧に寝坊というやつである。


「じ、12時!?ご、ごめん!」


これはファリスに攻撃されても仕方ないことだと思い直す。昨日はしっかり起きることができたというのに、その翌日でこの体たらく......。リア自身も、こんなことで大丈夫かと思い直すのであった。




*****




自動ドアの機会音と共にポケモンセンターの入口から茶色の塊が飛び出してくる。


『ぶーい!』

「もうちょっとゆっくり行こうよ......ミアレまでは一本道なんだし」


茶色の塊、もといファリスは、リアを急かすように動き回る。リアは肩に乗るフォッコ、フォルを撫でながらそれに続いた。

メテオはいつもどおり、ボールの中である。

まだ寝起きで怠い体をせっせと動かして街の出口へ向かう。ハクダンシティとは、一旦お別れだ。
なんとなく感慨深いなぁと思って、この数日を思い出しながら歩く。


「あら、あなた!」


後ろから誰かを呼び止める声が聞こえる。
しかし、リアはファリスを追うことで頭がいっぱいであり、その声は届いていなかった。


「ねぇ!」

「わっ!?はい!」


肩を掴んで引き止められ、やっとその声に気づく。振り返ってみると、変わった髪型の女性がそこにいた。何処かで見覚えがある髪の癖である。


「あなた、リアちゃんね!」

「え、はい......そうですけど」


いきなり名前を言い当てられ、尻すぼみになりながらそう答える。首だけひねって話すのも疲れるので、改めて彼女と向き合った。


「あっ!あいさつが遅れたわね。わたしはパンジーといいます。ジャーナリストなこ。そして、の街のジムリーダーのビオラはわたしの妹」

「妹!?」


なるほど、よく考えてみれば彼女の髪の癖はビオラにそっくりだった。道理で見覚えのあった筈である。


「ビオラさんのお姉さんでしたか。で、私に何か......?」

「そんなに深い意味はないのだけど......ビオラがね、二連敗したって言ってたから、どんなトレーナーなのかなと思って」

「は、はぁ」

「ビオラに勝つなんてあなたたちすごいのね!」

「え、あ、ありがとうございます......」


パンジーは、微笑みながらそこまで言うと、リアの肩を掴んでいた手をおろした。

だが、話はまだ続くらしい。


「あ、もしかしてプラターヌ博士からポケモンをもらったこどもたちの一人かしら?」

「はい。一応......」


他人といきなり話すのは、苦手だ。

この状況をどうにかできないかと考えながら、パンジーの顔に目を向けた。パンジーがふと、腕時計に目をやると、その瞬間顔が青ざめていく。


「......いっけない!もうこんな時間!?ごめんなさい、私もう行かなきゃ!」

「え?」

「急に引き止めてごめんなさいね。ミアレシティの出版社にいるから、よければ遊びに来てね!」

「えっ......」


なんなんだ今の人は......。

ミアレシティの方向へ、怒涛の速さで走り去って行った彼女の後ろ姿を唖然とした表情で見送る。


「......わたし達もいこうか」

『ぶい』

『フォコ』


そうポツリとつぶやいてから、止めていた足を動かしたのだった。





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