精霊の欠片

□あたたかいもの
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「寒い」


ぼそりと呟いた声は微かに震え、空に吹き付ける冷たい風に押し流された。両手はファイアローに捕まらなければならないので、塞がっている。

ファイアローが炎タイプだったのが、唯一の助けだ。


「仕方ないだろ、空なんだから」


と、言ったカイの声も震えていてなんだか微妙な感じである。ちなみに、二人とも少し薄着なので、寒いのは自業自得とも言えなくもない。

ここまで寒いのは春だからだろうか、余りにも寒いので、ファイアローの背中に抱きついてみた。
......あったかい


「ファイアローぬくぬく」

『ローッ!』


ファイアローが甲高く鳴いた。

嬉しかったのか、バランスを崩したのか分からないが、ファイアローが大きく羽ばたいた。そのため、背中に乗ってた二人は大きく揺さぶられる。


「ゆ、揺れる!」

「落ち着けファイアロー!」

『アロー......』


申し訳なさそうな声で返事が返ってきた。

安定したので、背中のふたりはほっと一息ついた。振り落とされたらひとたまりもない。


「それにしても......カロス地方って本当に綺麗ですね」


未だにファイアローに抱きつくリアが下をチラリと見てそう言った。下には、庭だろうか。綺麗に整えられた花々が見える。


「ああ、本当に美しい所だよカロスは。リアもこれから色んな所を見るんだろ?」

「はい。この子達と一緒に色んな所に行こうと思ってます」


リアは自分の腰についているモンスターボールをちらりと見つめ、目を細めた。

ファイアローから起き上がって大きめの声で言った。その声は少し上ずっていて、楽しみだというのが言わなくてもわかる。


「そうか。楽しんできなよ」

「勿論です!」

「ほら、あれがお待ちかねのメイスイタウンだ。ファイアロー、あそこの屋上に降りてくれるか」

『アローッ』


さっきの反省もあるのか、揺れないように徐々に高度を落としていくファイアローからその街を見る。
花と噴水が、僅かにその街を彩る落ち着いた所だ。

ファイアローが数回大きく羽ばたき、メイスイタウンに建っている建物の屋上に静かに着陸した。


「ありがとう、ファイアロー」

『ローッ』


降りやすいようにかがんでくれたファイアローの羽をひと撫でして、街が見渡せる所に立つ。
空とはうって変わり、やはり地上は暖かかった。

緩やかに吹き抜ける春風。それは少々冷たく、リアの頬をなでていく。
それを感じる暇もないまま、突然ボールの開閉音がして、2体のパートナーが勝手にでてきた。

別に構わないのだが、果たしてこれはいいのか悪いのか......。


『フー』

『ぶいぶー』


ファリスがもはや定位置になりつつある、リアの頭に乗り、メテオが横に並んで立った。チラリとメテオを見ると、整えられていた毛が所々汚れたり、逆だってしまっている。

メテオも気になっているのか、少々不機嫌そうだ。

そんなメテオの様子を見て、リアは少し笑った。片手をで乱れた毛を軽く撫でて整える。


「あとでブラッシングしようか」

『フォウ!』


表情にはあまりださないが、その僅かに弾んだ声音で、嬉しいのだろうということがわかる。頭の上のファリスも、『私も!』とでも言いたげに、頭を叩いて自己主張してきた。


「痛い痛い......痛くないけど。ファリスもね」

『ぶーいぶーい!』


うんうん。2匹とも嬉しそうだ。長旅で疲れてるだろうし、後で思いっきり綺麗にしてあげよう。


「リア」

「はい?」

「今日はこれからどうするんだ?」


ファイアローをボールに戻したカイがリアに声をかけた。


「今日は、とりあえずおばさんに挨拶しようと思ってます。ちょっと聞きたいこともあるので......」

「そうか。ならこっち。案内するよ」

「お願いします」


メテオとファリスをボールに戻そうとしたが、拒否されたのでそのまま行くことにした。もし、なにかあるのならば、カイが何か言ってくるだろう。

先に行ったカイを追って、リアも屋上をあとにした。





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