精霊の欠片
□新たな旅路
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「わぁ...っとと」
軽く降っていた雨も止んで、少し荒れた海を進む船はぐらぐらと揺れる。
ここ数日見られなかった快晴の空に澱んだ雲が無いのは勿論のことで、自然と心がすっきりとした。
窓からのぞく久しぶりの青空にはいてもたってもいられなかった。
「ねぇ、メテオとファリス!晴れたよ!久しぶりに外に行こうよ!!」
船室の窓に手をかけてぴょんぴょん跳んで喜ぶ自分たちのトレーナー。イーブイはそんな彼女と同じように喜び、彼女の頭の上にとびのるが、アブソルは仕方ないなぁとでもいうように、立ち上がった。
彼女はうずうずとした様子で船室から飛び出し、軽快な足音を立てて外に出る。
陽気な気分のまま海が見えるところに出ようと、階段を降りる。それを見て近くにいたお爺さんが声をかけてきた。
「転ぶなよー、お嬢ちゃん」
「あははー大丈夫ですよー、うわぁ!?」
大丈夫とは言ったものの、案の定階段の二、三段目のところで思いっきり足をもつらせて転んだ。
そのまま、彼女の体は床へと吸い寄せられる。
それを即座に感じ取ったのか、イーブイは下敷にされないよう、さっさと頭から降りていた。
ごんっ、と痛そうな音が周りに響いた。
い、痛い。頭がぐらぐらする......
折角、危なっかしく思ったのだろうお爺さんが親切にも注意を促してくれたのに......その矢先にこれである。
顔を上げるとそのお爺さんは、あちゃー、とでも言う感じで額に手を当てていた。
......周りの人からの視線が痛い。
本当に慌てるといいことがないよ。うん。
とりあえず、床から何事もなかったかのように起き上がり、軽く服に着いた汚れをはらう。
じんじんと痛む額を恐る恐る触ってみると、少しだけ腫れて、熱を持っていた。
「だ、大丈夫かい?お嬢ちゃん?」
「あー.....大丈夫です。お騒がせしました..,...」
「いやいや、大丈夫なら良かった。」
心配してくれたお爺さんにぺこりと頭を下げる。
アブソルから冷たい視線が痛いほど向けられているが、気にしない方向で。
そんなこんなで、ようやく快晴の空に照らされた海を見ることができた。
「わぁ......!」
『ぶーい!!』
思わず船から身を乗り出し、外を見て目を輝かせる様は、傍から見ればとても微笑ましいものだ。
『ソル......』
そうなのだが、その行動は少し幼稚に見えて、背の低いこともあり、とても15歳には見えない。
彼女がひたと見つめる海の先にはまだ小さいが陸が見えた。
「ファリス、メテオ、あれがカロス地方だよ。今度は、彼処を旅するんだ...」
船の壁に手を掛けた彼女は潮風に髪を揺らしながら言う。
その眼はきらきらと輝いていてカロス地方という新しい土地に興奮を隠せないようだった。
「なんか、すっごく楽しみになってきた。早くつかないかな、カロス地方!」
ねっ!とイーブイとアブソルに話をふると、それぞれの返事がかえってきた。
例え、表現の仕方が違っても、二匹とも、彼女と同じように楽しみなのに変わりはない。
『ぶいっ!!』
『フォウ!!』
上陸するまで、後少し......
そう考えれば考えるほど、新しい旅への期待と希望は高まっていくのだった...。
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