精霊の欠片

□霞んだ過去
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「おい、起きろ!」

「ん......っ?」


ぐらぐらと揺れる感覚で重い瞼を開けたリアは、飛び込んできた光景を上手く飲み込めずにいた。目を開けてみれば全く違う風景が広がっていたのだ。無理もないだろう。

リアは、なんとか今の状況を理解しようと辺りを見回してみた。

まず、先程の森は消え、元の森に戻っている。ということは、ここは夢ではないのだと思われる。

そして、背中に当たるゴツゴツとした感触と、左腕に触れる慣れ親しんだ柔らかな毛の感触。ほのかな体温に落ち着きが出てくる。

自分はどうやら、木にもたれかかって寝ていたようだ。左側にはメテオが伏せている。

倒れるときは草むらにいたはずだから、ポケモン達が運んでくれたのだと思う。それが可能かどうかは分からないが、周囲に誰もいなかったはずだからそう考えるしかしかない。

目に見える範囲で、ここまではまだ理解できた。

が、現在進行形でリアの肩を掴んでいるこの青い人が、なぜここにいるかのは、ちょっと理解に苦しむ。


「えっ、あ......え?」

「やっと起きた......」

『フゥ』


青い人ーーカルムはようやくリアから手を離し、溜息とともにそう言った。

それと同じタイミングでメテオの溜息が聞こえたが、いつものことなのでスルーしておこう。

だが、なぜこんなに呆れられなければならないのか。ちょっと納得できない。

もやもやするが、それはちょっと横に置いておいて状況理解を優先することにした。


「......あのー、どうしてここにあなたがいるんでしょう?」


カルムから沸き上がる不機嫌オーラに思わずたじたじになり、敬語になってしまう。

その言葉が耳に入っているのかいないのか。はたまた答える気がないのか。カルムは答えをいう前に、リアの目の前でしゃがむという体勢からすっくと立ち上がった。


「それは、歩きながらでも話せる。まずは、サナ達と合流しよう」

「あ、はい......」


まともに答えてくれないカルムだが、その様子からするとちょっと焦っているのだろう。

リアもここは従っておこうと判断する。

カルムと同じように立ち上がると、周りにはこちらをこっそり覗いてくるポケモン達と、フォルとファリスが視界に映った。

2匹はぴょんと跳んで定位置となりつつあるリアの腕と頭にそれぞれのる。

ポケモン達をボールに戻す暇もなく、急かすカルムの後について歩き出した。

カロスの森の空気を感じながら、背の高い草の繁る中へ足を踏み入れる。


「で、どうしてここに?」


歩き出してすぐ、リアは疑問を投げかけた。

カルムはチラリとこちらを見てから、また前を向いて話し出す。


「なかなか戻ってこなかったから、皆で君のことを探してたんだよ」

「え......それは、どれくらい......」

「1時間」

「うあぁぁぁごめんなさい!!」


もしかしてと思い恐る恐る時間を聞いてみたが、やはりその通りであった。反射的に、謝罪の言葉を入れる。

また、彼らに迷惑をかけてしまった。これは不機嫌なのも仕方ない。そうとう心配もかけたのかもしれなかった。

気がつけば、太陽も頂点を過ぎたようで、木々の影が朝とは反対の方向に伸び始めていた。


「で、なんであんなとこで寝てたんだ?」


今度はカルムの方から質問が飛んでくる。

そういえば、カルムには事情を何も話してなかった。リアは記憶に新しい出来事を思い出しながら言葉を口に乗せる。


「あ、えっとね、ポケモン達を図鑑に記録しながら戻っていたら、バタフリーとぶつかって......あれは眠り粉かな。で、多分この子達があそこまで運んでくれたんだと思う」

「そうだったのか」


そうだ、呑気に昼寝をしていたわけではないのだ。そりゃ、寝ている時間は長かったのかもしれないけれども......。

そこでふと思い当たる。思いっきり顔から粉を被ったから、ファリスやフォルも眠り状態になっていてもおかしくはないのだが、この2匹はぴんぴんしている。

また後で聞こう。覚えていればだが。

隣を歩くメテオの毛をなんとなく撫でながら、ずんずんと進むカルムの後をひたすら着いていく。

話すことも話題も思いつかないのでどちらも無言だ。
正直、気まずくて仕方ない。

こういうときは、自分の思考に浸ってしまうのものである。

案の定、リアはその状態に陥っていた。
その頭の中は先程の夢のことでいっぱいだ。

夢というものはなかなか頭に残らないもので、もう大分記憶が薄れてしまっているが、全く思い出せないわけではない。

それもそうだ。あれはリアの過去であり、楽しかった頃の一遍だ。

今が楽しくないわけではないが、幼い頃というのは様々なことから楽しみを見つけるわけで、楽しかったことは結構覚えていたりする。

今の今まで気にもしていなかった、些細な楽しみだったから、忘れていたのかもしれない。

でも、いくら忘れていたと言っても再びそれを見れば思い出すわけで。

あの時とは違う視点で、小さかった頃とは違う感じ方を持って再びその場面に立ち合えば、また違う感情を感じられ、すっかり記憶
に残ってしまったものもあるのだ。

それが、なんだかちくちくと残り、リアの気持ちを沈めていた。


「......はあ」


カルムに聞こえない程度に小さくため息をつき、この気まずい空気が早く終わらないかと足を速めるのだった。





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