音素の破壊者

□牙持てぬ導師(フォンマスター)
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知事邸を出ると、一人の老人が慌てて逃げていった。


「……な、なんだ?」


散歩から戻ったアッシュは『スピノザが逃げていった』という。


「スピノザが?
何をしていたんだ?」

「……今の話を立ち聞きして、通報しようとしているのでは」

「スピノザはそんな男じゃないわ!」


『人は見かけによりませんよ』とアニス。お前もな。


「……何か聞かれては困る話をしていたのか?」

「ファブレ公爵やヴァンには内密で、禁書の音機関を復元させるんですのよ」

「その間に俺たちはイオンを連れてくるんだ」


詳しい内容を知らないためか、彼は腕組したまま首を傾げる。ほどなくして結論に至った。


「……とにかくスピノザを捕まえておけばいいんだな。
俺が奴を捜しておく」

「アッシュ!私たちに協力して下さいますのね!」

「それなら一緒にスピノザを捜そうぜ!」

「か、勘違いするな!俺もスピノザには聞きたいことがある。
そのついでに手伝ってやるだけだ。
お前たちと……レプリカ野郎と馴れ合うつもりはないっ!」


一瞬、イシェラの肩が揺れた。レプリカという言葉に反応したのか。


「何言ってんだよ!
どこに逃げたかもわからないんだぜ。
それに乗り物だって必要だろ!」

「黙れっ!
お前たちはさっさとイオンを連れてくればいいんだよ!」

「〜〜っ!あったまきた!
あいつより先にスピノザを見つけてやる」

「そんな風に言うのはおやめなさい。
今の子、イエモンの若い頃に似てるわ。
きっと本当は一人で寂しいのよ」

「ふん。なおさらいけすかん。
いいか、ルーク。スピノザは船で国外へ逃亡する筈だ。
あいつより先に見つけるんだぞ!」

「当然」

「……言っておくけれど、イオン様を連れてくることの方が大事よ」

「うっ……うるせぇな!
ダアトに行くついでに、ちょっと他の街に立ち寄って調べる分にはいいだろ?」

「やれやれ。
変なところで負けず嫌いですねぇ」
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