音素の破壊者

□牙持てぬ導師(フォンマスター)
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――――
ベルケンドい組の二人の元を訪ねることになったわけだが……またあの施設に行くことになるとはな。


「知事に内密で仕事を受けろと言うのか?
お断りだ」

「知事はともかく、ここの責任者は神託の盾騎士団のディストよ。
ばれたら何をされるか……」


提案者のガイは予測していたのか、わざとらしい声をあげ切り返す。


「へぇ、それじゃあこの禁書の復元はシェリダンのイエモンたちに任せるか」


おじじたちはイエモンという単語に過敏に反応。早い。


「な、何!?イエモンだと!?」
「冗談じゃないわ!
またタマラたちが創世暦時代の音機関を横取りするの!?」

「……よ、よし。こうなったらその仕事とやら、引き受けてやろうじゃないか」

「何々?なんでおじーさんたち、イエモンさんたちを目の敵にしてんの?」

「イエモンと私たちは、王立大学院時代から音機関研究で争ってる競争相手なの」
「俺たち『ベルケンドい組』はイエモンたち『シェリダンめ組』に99勝99敗。
これ以上負けてたまるか!」

「おい、ガイ。
おまえ、これ知ってたのか?」

「音機関好きの間では有名なんだよ。『い組』と『め組』の対立」

「しかし俺たちだけではディストに情報が漏れるかも知れない。
知事も抱き込んだ方がいいだろう」

「でも、私たちは知事に追われる立場です」

「大丈夫。知事の説得は私たちに任せてちょうだい」

「よし、行くぞ。キャシー!」


そう言ってさっさとその場を立ち去る二人。取り残された俺たち。


「……行ってしまいましたわ」
「やれやれ。では作戦の説明は知事の前で行いましょう」


――――――――
知事邸へ入るや否や、「ルーク様」と声がした。その主の顔に覚えはない。…恐らく、彼が知事なのだろう。俺やジェイドなどを除く数人がその一声に身構える。


「安心しなさい。
知事は協力してくれるそうよ」

「私はファブレ公爵のご命令通り、ルーク様とナタリア殿下を捜しているが見つからない。
それだけです。よろしいですな」

「よく言う。禁書の内容に興味津々だったくせに」


その様子を見て警戒を解くと、年長者が口を開いた。


「結構です。では簡単に、今までのことをご説明いたしましょう。
さあ、ガイ」

「俺かよ!?まぁいいや……」


――――
「なるほど。大変な話だ。
にわかには信じがたい……」

「何言ってるの。現にルグニカ大陸が消滅してるじゃない」
「まずは地核の振動周波数を計測する必要があるな」

「地核の振動周波数ってどうやって調べるんだ?」

「パッセージリングからセフィロトツリーへ計測装置を入れればわかると思います。
ですから、まだ降下していない外殻大地のセフィロトへ行く必要がありますね」

「確かシュレーの丘もザオ遺跡も魔界と化していますよね…」

「ユリアシティで、お祖父様に聞きましょうか?」

「魔界に行くのなら、アルビオールの飛行機能を取り戻さなければいけませんわね」

「そうか。今は飛べないんだったな。
どうする?
ユリアロードを使うか?」


「だったらダアトに行こうよ。
もしかしたら、イオン様がセフィロトの場所を知ってるかもだし」

「そうだな。どのみちセフィロトの入り口はダアト式封咒で封印されてるんだ。イオンもつれていかないとな」

「計測装置に関しては、こちらで復元しておく」

「頼むぜ。その間に俺たちはダアトへ行こう」


―――――
徐々に激しく、重くなる痛み。


「ったく……まだ終わらないでくれよ」

「どうかしたんですの?」

「…いいや、なんでもないよ」


そう言い、ナタリアに強張った笑みを見せると、彼女は少しだけ躊躇い、心配そうに俺を瞳に映した。その目はわずかに揺らいでいる。


「……なら、いいのですけれど」


かすかな声に頷き、いつものように前を向く。その顔に正気が感じられないことも知らずに。


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