音素の破壊者

□牙持てぬ導師(フォンマスター)
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―――――
アッシュを見た、筈だった。
触れることすらできずに消えたそれは何だったのか。わからぬまま目を瞑る。開けば再びベッドの上だ。


「…あ、……また夢なのか?」

「不思議な夢をご覧になっていたようですが、大丈夫ですか」

「はっ、なにそれ」

「寝言がはっきり聞き取れたものですから」

「……喋ってた?」

「えぇ」

「そっ……まぁ、いいけど」

「内容は?」

「誰が言うかよバーカ」


べっ、と舌を出してあっかんべーをして、さっさと部屋を出る。


『夢の中で夢を見るとかだいぶヤベーやつじゃねーの…?』


夢に閉じ込められて、そのうち覚めなくなってしまうとかそんなところだったか。


「起きたか」
「おはよう」

「おはよ〜ファレン」
「おはようですわ」

「おぉ、おはよう」
「おはようございます」

「…はよ、みんな」


気怠そうに頭を掻き、欠伸をひとつ。



―――――
それから暫くしてルークが起きて部屋から出てきた。


「ジェイド!
何かわかったのか?」

「はい。魔界の液状化の原因は、地核にあるようです」

「地核?」


真っ先に反応を示したのはナタリアだ。


「記憶粒子が発生しているという、惑星の中心部のことですか?」


ジェイドは肯定の意を見せると、さらに続けた。


「本来静止状態にある地核が激しく振動している。これが液状化の原因だと考えられます」

「それならどうしてユリアシティのみんなは、地核の揺れに対して何もしなかったのかしら」

「ユリアの預言に詠まれてねーからとか?」

「それもありますが、一番の原因は、揺れを引き起こしているのがプラネットストームだからですよ」

「プラネットストームって確か、人工的な惑星燃料供給機関だよな?」

「そうよ、覚えていたのね。
地核の記憶粒子が第一セフィロトであるラジエイトゲートから溢れ出して、第二セフィロトのアブソーブゲートから、再び地核へ収束する。
これが惑星燃料となるプラネットストームよ」

「そういえばプラネットストームは、創世暦時代にサザンクロス博士が提唱して始まったのでしたわね」


それに対し、ジェイドはええ、と頷き


「恐らく当初は、プラネットストームで地核に振動が生じるとは考えられていなかった。
実際、振動は起きていなかったのでしょう。
しかし長い時間をかけてひずみが生じ、地核が振動するようになった」

「サザンクロス博士も地核の振動を想定してなかったんですね」

「地核の揺れを止めるためには、プラネットストームを停止しなくてはならない。
プラネットストームを停止しては譜業も譜術も効果が極端に弱まる。
音機関も使えなくなる」


『外殻を支えるパッセージリングも完全停止する』


「打つ手無しかよ…」

「いえ、そうではありません。
プラネットストームを維持したまま、地核の振動を停止できれば…」

「さすがイシェラ。イオン様に次ぐ導師なだけあり、勘が鋭いですね。
その通りです」

「そんなことできんのか?」

「この禁書は、そのための草案が書かれているんですよ」

「ただユリアの預言と反しているから、禁書として封印された?」

ティアの言葉に頷いたジェイドは「セフィロト暴走の原因がわからない以上、液状化を改善して外殻大地を降ろすしかないでしょう」という。


「もっとも液状化の改善には、禁書に書かれている音機関の復元が必要です。
この街の研究者の協力が不可欠ですね」


だが、と口を開いたのはアッシュだ。


「この街の連中は、みんな父上とヴァンの息がかかっている」

「……ち、父上ぇ……!?」
「……なんだ!?何がおかしい!」

「へぇ〜。アッシュってやっぱり貴族のおぼっちゃまなんだぁv」


何やら言ってはいけないことを言ったのか、アッシュは踵を返し出口へ歩こうとする。ナタリアが名を呼び、彼を留める。


「どこへ行きますの!」

「……散歩だ!話は後で聞かせてもらうから、おまえらで勝手に進めておけ!」


そう言ってさっさと出ていってしまった。


「ありゃ、怒っちゃった。
えへ〜、失敗失敗v」

「可愛いところがあるじゃないですか」

「もう!彼をからかうのはおやめになって!」

「アッシュの言う通りなら、研究者たちの協力を得るのは難しいのでは……」

「いや、方法ならある。
ヘンケンっていう研究者を捜してくれ」

「捜してどうするんだ?」

「後のお楽しみ、さ」

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