音素の破壊者

□絆を胸に
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―――――
会議室へ入ると、アッシュを通じて見えた老人の姿を捉えることができた。


「おぉ、ティアか。
そちらは、確か……」

「あ……は、はじめ……まして。
俺、ルークです」

「ミュウですの」


ルークは小声でミュウに黙っているよう耳打ち。


「俺はファレンと申します」

「えと……アクゼリュスのことでは……ご迷惑をおかけして、す……すみません……でした」

「君がルークレプリカか。
なるほどよく似ている」

「お祖父様!」

「これは失礼。しかしアクゼリュスのことは我らに謝罪していただく必要はありませんよ」

「ど、どういうことですか?」

「アクゼリュスの崩落は、ユリアの預言に詠まれていた。
起こるべくして起きたのです」

「どういうこと、お祖父様!
私……そんなこと聞いていません!
それじゃあホドと同じだわ!」

「これは秘預言(クローズドスコア)。
ローレライ教団の詠師職以上の者しか知らぬ預言だ」

「預言でわかってたってたら、どうして止めようとしなかったんだ!」

「ルーク。外殻大地の住人とは思えない言葉ですね。
預言は遵守されるもの。
預言を守り穏やかに生きることが、ローレライ教団の教えです」

「そ、それはそうだけど……」

「誕生日に何故預言を詠むか?
それは今後一年間の未来を知り、その可能性を受け止める為だ」

「ならどうしてアクゼリュスの消滅を世界に知らせなかったの?」

「そうだ!それを知らせていたら、死ななくてすむ人だって……」

「それが問題なのです。
死の預言を前にすると、人は穏やかではいられなくなる」

「そんなの当たり前……です!
誰だって死にたくない……!」


ざわざわと血が騒ぐ。ああ、預言、預言…そんなものがあるから、世界は……。


「それでは困るのですよ。
ユリアは七つの預言でこのオールドラントの繁栄を詠んだ。
その通りに歴史を動かさねば、きたるべき繁栄は失われてしまう。
我らはユリアの預言を元に、外殻大地を繁栄させる監視者。
ローレライ教団はそのための道具なのです」

「……だから大詠師モースは、導師イオンを軟禁して戦争を起こそうとした……?」

「ヴァン師匠も……預言を知っていて俺に……?」

「その通りた」

「……お祖父様は言ったわね。
ホド消滅はマルクトもキムラスカも聞く耳を持たなかったって!
あれは嘘なの!?」

「……すまない。幼いお前に真実を告げられなかったのだ。
しかしヴァンは真実を知っている」

「……じゃあやっぱり兄さんは世界に復讐するつもりなんだわ。
兄さん、言ってたもの。
預言に縛られた大地など消滅すればいいって!」

「ティア。ヴァンが世界を滅亡させようとしているというのは、お前の誤解だ。
確かにホドのことで、ヴァンは預言を憎んでいた時期もあった。
だが今では監視者として立派に働いている」

「……立派?アクゼリュスを見殺しにしたことが!?
お前らおかしいよっ!
イカレちまってる!!」

「そんなことはない。
ユリアは第六譜石の最後で、こう預言を詠んでいる」


……やめろ。


『ルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう』


聞きたくない!やめてくれ…!



――預言なんて、二度と聞きたくない!!


過去にもそんなことを言っていた。
俺のせいで人が死ぬと詠まれたから。


『結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる』



仮に死ななかったとしたら、その先は?
……別の時に死ぬのだろうか。



「未曾有の繁栄を外殻大地にもたらすため、我らは監視を続けていたのだ」

「でもお祖父様……兄さんは外殻大地のセントビナーを崩落させようとしているのよ!」

「セントビナーは絶対に崩落しない。
戦はあの周辺で行われる。
何しろ預言には何も詠まれていないのだからね」


……狂ってる。

この街に住む者はみんな預言通りに生きることしか知らないんだ。

預言がそう言っているならそれに従う……?やめてくれよ。

まだ生きたい人だってたくさんいるのに、それを見捨てるのか……?


何で、こうもすれ違う――――






「テオドーロ市長。
そろそろ閣議の時間です」

「今行く」


『そんなに心配ならユリアロードで外殻大地へ行きなさい』と言うと


「お前たちの心配は杞憂なのだよ」


そう言って会議室を出て行ってしまった。



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