薄桜鬼【神のみぞ知る】

□新しい時代
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千里は千景によく懐いていた。

いや、千景以外には懐かなかった。


千景「…千里、いい加減 離れろ!」

千里「やだ!ちさとも、けいこやる!」

千里は千景の着物を掴み離さなかった。

九寿「本当に千里さんは、風間が好きですねえ」

千里「ちがうよ!ちーちゃんが、ちさとをすきなんだよ!」

小さな千里の愛くるしい笑顔からは誰も逆らえなくなる。

千景「…面倒だ。もう、それでいい」

千里は、寝起きも食事時も稽古も千景から離れる時はなかった。

千景は千里に、たくさんのことを教えた。
剣術、読み書き、礼儀作法、体術…
毎日のように千里は千景を追いかけていた。

だが、たった1度だけ離れなくてはならない日が訪れた。


『精通の儀式』


風間家には子供を持つ能力があるのか
15歳になると、それを行うための儀式があった。

頭領となる子息に種がなかったら意味がないからだ。

相手となる女は金に困った家の選ばれた女鬼だった。

孕むとその女鬼の家には風間家から、一生食って困らないほどの財産が与えられた。

そして、孕んだ後は堕胎し女鬼は風間家の頭領の侍女として風間家から一生出ることは出来ない。


風間千景は、この儀式のことは理解していたが、千里と過ごす時間が増える度に自分が汚い何かになってしまうようで嫌悪感に溢れていた。

千里が綺麗すぎて自分がすることに、その日が近づくと苛立ちを隠せなかった。


千景「千里、今夜は一緒には寝てやれんから母の部屋で寝ろ。いいな」

千里「…なんで?」

千景はキラキラ輝く、大きな瞳に吸い込まれそうになる。

千景「…大事な用があるからだ」

千里「なんの、ようじ?」

千景「何でもいいだろ!!」

千里「!」


千景の荒げた声に
千里の肩がビクッと跳ねた。


千里「ちーちゃん…おなかすいたの?」


栗色の大きな瞳が千景を覗き込んだ。


千景「…ふっ。ふははは!腹が減ってるから、おまえに八つ当たりしてると思ってか?はははは」

千里「ちーちゃん、ちさとのおやつ あげるよ。たべな」


千里は着物の袂から和紙に包まれた金平糖を差し出した。
千景には、その金平糖さえ宝石に見えた。


千景「…千里。俺はな…おまえを見ていると自分が汚い者になったようで嫌なんだ…」

千景の紅い瞳が僅かに揺れた。

千里「ちーちゃんはきれいだよ!ちーちゃんよりきれいな人、ちさと みたことないもん!」

キラキラとした笑顔で千里は千景を見つめていた。

千景「…ふっ」

千里は千景の頬を小さな両手で包み
真っ直ぐに言った。

千里「ほんとだよ?ちーちゃんはきれいだよ?」

千景は、フッと小さく微笑んだ。


千景「千里、俺と逃げるか?」

千里「鬼ごっこ?」

千景「鬼から逃げるんだから、鬼ごっこか…」

千里「じゃ、よるは ちーちゃんと鬼ごっこね〜約束♡」


千里は小さな小指を差し出した。

千景はその小指を絡めると小さな指に口付けた。


千景「…千里、おまえは俺様の嫁にしてやる。有難く思えよ」

千里「ちーちゃんのおよめ?おいしい?」

千景「ふははは!どうだろうな…あと10年…10年経てばわかるかもな」

千里「ちさと、なんさいになる?」

千景「15だ…15になったら、貴様は俺様の嫁だ」

千里「ん〜よく、わかんないや!おいしいならいい♡」


千里は千景の手を引き、まだ蕾にもなっていない桜の木の下で言った。


千里「ちさと…このはな、きらい」

桜が嫌いと言った千里は『さくらをみるとかなしくなる』と言った。

千景「ほぉ…なら、どれがいい」

千里「あれ…」

千里は寒椿を指さした。

千景「…椿か。そうだな…おまえには桜より真紅の椿が似合う」

千里「だって、ちーちゃんの目とおんなじ色のきれいなお花だから好き」

千景「なっ!…」


千景は自分の目の色が嫌いだった。
誰にも似ていない紅い色ー
その色は周りの鬼達にも好奇の目で見られていた。
だか千里の、たった一言で千景は心から嬉しいと思っていた。

千景は椿を摘み千里の髪にさした。


千景「やはり、よく似合う…」


千里「ちーちゃんにも」


千里は千景の髪にも椿をさした。



千景はその椿をつけたまま、夜の儀式に向かった。


夜になると千里が騒ぎ始めた。

千里「ちーちゃんは?ちーちゃん!ちーちゃん!」

千里は千景はどこだと、泣き散らした。


雪奈「今夜は母と寝ましょ千里」

九寿「千里さん、私と寝ますか」

千里「いやだよ!あまぎりはヒゲがいたいもん!」

九寿はガクンと肩を落とした。


雪奈「九寿くん、あとは私が…」

千里「いやだあ!ばか、ばか、ばか!かあさまも、あまぎりもきらい!ちーちゃん!ちーちゃん!うわあああん…」

暴れ泣く千里を雪奈が抱き上げた。

雪奈「千里…明日はまた一緒に寝れるから今夜だけは我慢ね?ね?」


千里の返事はなかった。

ただ泣き疲れて眠りについたのだった。


そして、この日
運命は動き出した。
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