VitaminX

□盛大なる発表
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「行ってきます、悠里」

「行ってらっしゃい一君」

一君と結婚して半年。
こうして玄関で挨拶するのにも慣れてきた頃。

それは起こったーー。



「一君、今日は大事な試合でしょ?忘れ物はない?」

いつもの様に忘れ物の確認をする。

「ああ、大丈夫だぜ。悠里も忘れ物はないか?」

「ふふっ、大丈夫よ」

悠里が笑顔で答えると、一もニカっと爽やかな笑顔を返す。
かっこよすぎて未だにクラクラきてしまうのは内緒の話。

歩き慣れた道を一君と歩く。
それだけで私は幸せだった。

「今日の試合、観に来るのか?」

一が荷物を持ち直しながら言った。

「ええ。今日は土曜日だし、学校も午前中の補習だけだし…。試合もお昼からでしょ?」

「…そっか」

「どうしたの?一君」

一の顔を見上げながら聞くと、一は意味深な笑みを浮かべていた。

「そろそろいいんじゃないかと思って…」

ボソっと一が呟いた言葉の意味が理解できずに、悠里は首をかしげる。

「何がそろそろいいの?」

気になって聞いてみた。

「いや〜、やっぱり何でもない」

一はますます笑みを浮かべた。



やがて悠里の職場ーー聖帝学園の前に着くと、一と別れて学園内に入る。
5年前とは校風が少し違うが、それでも生徒たちを卒業まで導くという気持ちは、少しも変わってない。
11月の今は、初冬の冷たい風が全身を包み込む。

「南先生、おはようございます!」

元気のいい生徒たちに挨拶を返しながら、職員室に足を運ぶ。

結婚して、苗字が草薙になった今でも生徒たちには南で通っている。
それは、私と一君が結婚したことを公にしていないからで。
プロサッカー選手として活躍し始め、尚且つあの目立つ容姿だ。そんな彼が高校教師と結婚しているなんて世間に知れ渡ったら、大スクープとなる。
そして、学園にもファンや記者が押し寄せてくるだろう。そんなことになれば学園に迷惑をかけてしまうことになる。
それは何としても避けたい。
一君とも話し合った結果、公にはしないことにしたのだ。
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