VitaminX

□心配性の彼
1ページ/1ページ


翼君とパリに渡って半年が過ぎようとしていた。この半年間、彼はお母さんの立っていた舞台で本当に頑張っていたと思う。私も、聖帝の姉妹校との交換留学で日々頑張っている。たまに、一君が遊びに来てくるれたりして近状報告したりしていた。

「おい、悠里」
翼君に名前を呼ばれて、ハッとする。いつの間にかソファーで眠ってしまったらしい。
「ごめんね、寝ちゃってた?」
このソファー、フカフカでつい寝ちゃうのよね、と後に付け加えて翼君の方を見た。
「いや、寝るのは構わんがこんなところで寝ては風邪をひくぞ。最近風邪っぽいと自分で言っていただろう」
うん〜、だいぶ良くなったんだけど、少し熱っぽいかな…」

翼君は最近さらに大人っぽくなって、私にものすごく優しい。
翼君についてパリに来てからは、ほぼ同棲状態の私たち。
もちろん私は、まだ結婚もしてないのに早いんじゃないかと思って、最初の方反対してたんたわけど…。結局は一緒に暮らすことになった。(部屋を探したけど、いい物件がなかったというのもあるけど)

ぼぅと、翼君の姿に見惚れていると翼君の大きな手が私のおでこに優しく触れた。
少し冷たくて、気持ちいい。
「…なるほど、確かに少し熱があるかもしれん。明日もこの調子なら医者を呼ぶ」
彼は心配してくれているらしい。だけど、医者に連れて行く、ではなく、医者を呼ぶって…まぁ、翼君らしいのかな。
だけど、
「大丈夫よ、翼君。熱って言っても微熱だし…それに、食欲はいっぱいあるのよ?」
ソファーから立ち上がりながら大丈夫と主張する私。
だけど翼君は呆れた顔で立ち上がろうとする私の肩に手を置いて、再びソファーに座らせた。そして彼自身も隣に座る。
「翼君?」
綺麗な赤い瞳に不思議そうな顔をする自分が映っている。
「頼むから、無理だけはするな…お前に何があったら俺は…」
ぎゅっと体をきつく抱きしめられ、翼君が本気で私のことを心配してくてる事が伝わってくる。
「ありがとう、翼君…」
嬉しくて、翼君を抱きしめ返すと彼の手が私の頬に添えられた。
これからされるであろう事に想像がつき、一瞬で顔が赤くなる。
だけど、嫌ではないので目をぎゅっと瞑って待つ。
お互いの距離が後1cmという時だった。


「…っゔ!」
「な…っ悠里?!」
心配そうに私の名前を呼ぶ翼君の声も聞かずに私は口を手で覆い、洗面所へと走った。



胃から何かがむせ上がるような感覚ーー。

だけど、何度嗚咽を繰り返しても実際には一向に吐けなくて、それが苦しくて気持ち悪い。

「悠里!!」
慌てた翼君の声がようやく耳に入ってきた。
「つ、つば…」
「大丈夫か?!今すぐに医者に連れて行く!お前は支度が出来るまで横になっていろ!」

え?医者は連れて行くんじゃなくて、呼ぶものじゃなかったの?

えぇ??

もう、何が何なのかわからない。ただ、翼君がすごく動揺しているのだけは確かだ。
さらに翼君は、
「ーー永田!」
えぇ!?
永田さん、パリにいるの?!
「はい。翼さん、こちらに」
いた!!
って、どうしているのよ!
「永田、緊急事態だ。悠里の具合が悪い。病院に連れていく、手配をしてくれ」
「承知致しました」
永田さんは忍者のごとく凄いスピードでどこかへ行った。
相変わらずの永田さんだ。
って、そんなことより…
「あの、翼君…私、大丈…
「大丈夫なわけあるか!いいからお前は横になったままでいろ!今すぐに医者が検査入院で診察しろ!」
翼君は動揺し過ぎて、何を言っているのか意味不明だ。
当事者の私よりも動揺している翼君を見て、思わず苦笑いがもれる。
「私は大丈夫よ。だけらとりあえず、落ち着きましょう」
「これが落ち着いていられるか!ーー永田はまだか!」
「翼さん、こちらに。病院までの通路及び、医師の確保完了致しました」
さ、さすが永田さん…
「いくぞ、悠里」
翼君は私を素早く抱きかかえると、そのまま永田さんの手配した病院へ直行した。



「おめでとうございます」
病院に着くなり診察室に連行された私に告げられた言葉は、思ってもみない言葉だった。
目の前にはにこやかに笑うお医者さん。
その隣で頬を真っ赤にして翼くんに見惚れている若い看護師さん。
椅子に座っている私の隣に立っている翼君。
そして、私のお腹の中にいる小さな命。
「え…えっ!?」
本当に?
そろりと翼君の方を見ると、私以上にビックリしている顔があった。
そんな顔ですら凄くかっこいい。
「あの…翼君?」
聞こえてる?と、聞こうとした時だった。
「悠里!」
「きゃっ!?」
気が付けば、私は翼君の大きな腕の中にすっぽりと収まっていた。
だけど、抱きしめる力はそんなに強くはない。まるで、私のお腹をいたわっているような力加減。
目の前にお医者さんがいることも忘れてしまっていて、それが嬉しくて私もそっと抱きしめ返した。


<2週間後にまた来てください>
その言葉を最後にもらって、私たちは家に帰ってきた。
翼君は帰るなり私をソファーに座らせて、動くな、身体に障るからと言った。
そして自分も横に座る。
「…身体は大丈夫か?」
「うん、大丈夫よ。それより…」
これだけは聞いておかないといけない。
翼君が何だと言いたげな目をする。
「私、産んでもいいの?だって、翼君まだ20歳なのよ?そりゃ、生活費には困らないけど…」
「何をとぼけたことを言っている」
翼君はそう言うと、私の唇にキスをおとす。
突然のキスに驚いて離れようとそると、そうはさせまいと抱きしめられる。
「いいに決まっている。俺は悠里に産んでほしい」
耳元で優しく囁かれ、心臓が痛いくらいに波打っている。
「翼君…」
その言葉が嬉しくて嬉しくて、私の瞳から涙が溢れた。
「こら悠里。何を泣いている。腹の子が心配するぞ」
翼君がそんなこと言うから…
「だっで……」


ねぇ、翼君。
そんなこと言ってもらえて、お腹の子も凄く喜んでいるわよ。
まだ、私のお腹に2ヶ月くらいしかいないけれど…
大好きな、この世で1番愛してる人の子どもをこの身に宿すことごできた。
こんなにも嬉しくて、幸せなことって他にないと思うの。



「翼君。たくさん愛してあげようね」
「あぁ、そうだな」

もう一度、二人で微笑みながらキスをした。



やがて、翼君そっくりの綺麗なこが産まれてくる。

"たくさん愛してあげようね"

その約束はきちんと果たされている事は、間違いないーーー

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ