―――Der Wunsch ist in Erfüllung gegangen(成就する念願)―――
貴方に逢いたかった。
だって私は
貴方を地獄に突き落とす為だけに生きているのだから。
―――――
秘密情報部―――つまりSecret Intelligence Service(略称S/IS)は名称通り国家の極秘機関である。
其の役割は多岐に渡るが‥
主に国外の政治、経済及びその他秘密情報の収集。
更には海外におけるエージェントを用いた情報工作を任務としている。
そして運良く、彼らに接触する事が出来た美里は晴れてS/ISの一員として活動する事となったのだが―――
※こうしてSI/Sとして着実に任務をこなしていった美里さんは『黒い魔女』として各国に恐れられる様になる
長官「全く、君の情報収集力には恐れ入るよ」
美里「恐縮です」
と、長官である男が思わず唸る様に
美里は此処数年の間でメキメキと頭角を現し、何時の間にやらS/ISに無くては成らない存在として確立していたのである。
彼女の得意とする『ハニートラップ』によって。
長官「知っているかい??フラウ(ドイツ語での女性の敬称)美里」
美里「何でしょうか、長官」
長官「君はターゲット達の間で『東洋の黒い魔女』と呼ばれ恐れられているらしいぞ」
美里「そうですか‥‥‥」
確かに彼女は美しく、今まで彼女の美貌に騙されて袖にされた男は大勢存在する。
だが相手は皆、裏で悪事を働いていた愚かで浅はかな国家の膿(うみ)の様な男達だ。
其れこそ、美里が罪悪感を覚える必要すら無い程の。
だから
美里「ですが―――どう呼ばれようと私には何の関係も無い話しです」
長官「そう、だな」
彼女は何の関心も示さず、あっさりとそう言ってのけたのだ。
其れが迷っていた長官の判断を後押しするなどと思いもよらずに―――
※そんな美里さんの今回のターゲットはシュタ/ージの将校、前屋閃一だった
長官「其れでこそ『東洋の黒い魔女』だ」
「そんな君にしか出来ないであろう任務を今回は用意させて貰ったよ」
「だが、今回の任務は今までと違って一筋縄では行かない難度の高い任務だ」
「勿論、失敗は許されない」
「よって、考える猶予を君に与えよう」
其の言い回しは
まるで降りるなら今の内だ。と暗に促されている様な気もしたが―――
長官「ちなみに―――今回のターゲットは此の男だ」
美里「!!!!!」
彼女の目の前に一枚の写真がスイ、と差し出される。
其処には一人の男が映っていた。
長官「彼の名は前屋一輝。ポーランド系ドイツ人を父に持ち、幼い頃から徹底的に帝王学や経済学などを叩き込まれて育ったそうだ。故に商売事には専ら強く、表向きには複数の企業を有する資産家で通っている。だが―――」
長官は言った。
無論、偽名なのだと。
彼の本当の名は前屋閃一。
諜報部の調べによると偽名である『一輝』という名は死んだ兄である男の名を拝借しているらしい。
何故か。
答えは至極簡単。
其の名を知られては不味い理由があるからだ。
其れは―――
長官「彼にはもう一つ、違う顔がある」
美里「違う顔…‥‥??」
長官「そうだ。彼はシュタージ、つまりドイツ民主共和国の秘密警察(略称M/fS)としての顔を持っているのだよ」
美里「!!!!!」
徹底した監視態勢で東ドイツ国民を管理し、ベルリンの壁を越えて西側へ亡命を図る者を徹底的に弾圧した恐ろしい組織に所属していたからだ。
つまり
此の男が妹である縁を陥れた犯人の親玉という事。
其処まで理解した美里に、任務を断わる理由は一切無くなってしまった。
なので
長官「故に彼はその筋では『鉄の狼』と呼ばれ‥」
美里「長官」
長官「何だね、フラウ美里」
美里「猶予など必要ありません」
私は与えられた全ての任務を確実に、そして忠実にこなすだけです。
そう言って彼女は二つ返事で此の任務を受ける事にしたのだ。
だが
※ついに念願の宿敵と対峙出来、感慨に溢れる美里さん
長官「そうか‥ならば何も言うまい」
長官である男は内心、渋っていた。
あの男は危険だと。
今まで何人もの、其れも各国の諜報部員が彼の正体を暴こうとして挑んだにも関わらず
誰一人として
無事生還出来なかったからである。
其れでも
長官「では…君の健闘を祈っているよ」
美里「有難う御座います」
強い決意を感じさせる、其のルビーとローズクォーツが入り混じった様な美しい瞳に見詰められてはそんな事、口が裂けても言えなかった。
そうして運命の輪は回り出す―――
―――――
最愛の妹は国家の秘密警察に殺された―――
分かっているのはたった其れだけ。
しかし、美里が彼を憎むには十分に値する理由だった。
だって
誰かを憎まずには居られない程
愛して居たのだから―――
―――――
シュタージ。
其れはドイツ民主共和国(東ドイツ)の秘密警察・諜報機関である国家保安省の通称(略称MfS)であり
自由や一攫千金を求めて西ドイツへ逃亡する自国民を監視、及び処罰する他に
西ドイツにもスパイを送り様々な工作を働いたとされている。
よって東は勿論、西ドイツ国民からも彼らは恐れられ敬遠されており
彼らの毒牙に掛かった人間には決まって哀れな末路が用意されていた―――
―――――
女「や…止めて!!私は無実よ?!家に‥家に帰してえぇえっ!!」
悲痛な叫びが地下室内に響く。
だが、裸体の女に群がる男達は下品な笑いを浮かべて彼女を見下ろすだけだった。
※捕らえた女を玩具の様に玩ぶシュ/タージの下っ端達
部下1「無実だって??笑わせてくれるぜ」
部下2「ハッ。てめぇが非国民だっつーネタはもう上がってるんだよ!!しらばっくれんのも大概にしやがれってんだ」
部下3「ヒハハハ!!誰が家に帰すかよ、馬鹿野郎」
単衣も纏わぬ其の白く滑らかな素肌に男達の無骨な手がススッと這い回る。
瞬間、女は青ざめた様子で
女「何をするの?!触らないで!!嫌、離してっ!!」
と、咄嗟に暴れようと試みるが―――
部下2「おっと。そうはさせねぇよ」
部下1「怪我したくなかったら大人しくしやがれ、クソアマ」
女「いっ‥……いやぁああああ!!」
そうはさせまいと先に動いた男達がすかさず彼女の身体を取り押さえる。
其の華奢な肩、腕、足、などといった身体の至る部分を力任せに押さえ込まれる姿は悲愴的で
見ている者の憐れみを誘う様な
そんな痛々しい光景だったのだが。
※目の前で起こる部下の凶行にも動じず、寧ろ高みの見物と言わんばかりに眺める
閃一「全く。よくもまぁ…毎度毎度飽きもせずに同じ行為を繰り返せるものだ」
豪華な装飾の施された、立派な椅子にふんぞり返って座する此の男には
其の様な人間らしい感情など一切存在しなかった。
部下3「大佐、此の女…犯っちまってもいいですか??」
大佐、とは無論閃一の事を指す。
シュタージの上層部は大抵軍部に所属しており、閃一も其の例外に漏れず軍人としての階級を得ていた。
尤も、彼の場合は金と権力にモノを言わせて勝ち得た名ばかりの地位で
政治にも軍事にも直接的な興味を持っていなかった故に軍人としての活動も特別免除を受け放棄していたのだが。
大佐「あぁ、好きにしろ。どうせ始末するのは貴様らの役割なのだからな」
まるで興味が無い、とでも言いたげな其の涼しく冷たい声色に女の背筋が凍る。
女「そ、そんな……お願い、酷い事しないでっ///」
恐らく自分は助からないだろう。
女は本能的に悟った。
其れが、人を人とも思わぬ彼らのやり口だったから。
部下3「ひゃはははっ!!大佐のお許しが出たぞ」
部下1「残念だったな、女。非国民に人権なんてねぇんだよ」
女「あぁーっ///」
そうして許可が下りるなり
彼らは予め用意していたクリーム状の媚薬を指で掬って、乱暴に女の膣内へと指を捻じ込んでやった。
ずぶり
※更に薬物を使って女を攻め立てる
女「い、や…ぬい、て‥‥あぅうっ」
ぬちぬちと厭らしい水音を立てながら、膣壁にまんべんなく媚薬を塗りこむ男達。
其の度に熟れた女の身体がビクリビクリと切なげに痙攣して―――
部下2「へへっ、堪んねぇだろ??コレを使えばどんな女も一発で堕ちるんだぜ??すげぇだろ」
女「あ、あつい‥中が、燃える様に…熱いのぉっ///」
瞬く間に膣内が愛液で溢れ、びしょびしょの洪水状態となってしまった。
だが、其れを恥じる間も無く
部下1「んじゃ早速」
女「はぅっ?!」
既に支えが要らなくなった猛った男根でいきなり奥まで貫かれる。
女「あ、あ…あっ///」
其れは
女の理性を簡単に壊せる程の凄まじい快感だった。
部下1「動くぜ??」
女「んぉっ?!まっ…ひぃいいぃいっ?!なにこれええぇえっ」
ズンズンと前後に動かれる度に思考回路がショートする様な、そんな感覚に苛まれる。
まさに未知の体験。
女は抗う事もままならず、ただ与えられる快感を享受するより他無かった。
※一緒に上官も混ざりませんか、と誘われるものの、家畜の交尾になど一切興味は無い。と冷たく言い返す閃一さん
女「はぁんっ!!いい、のぉ!!此のおちん×、すごいいぃいい!!」
閃一「……‥‥‥」
けれど大佐と呼ばれた男は顔色一つ変えずに黙って其れを見ているだけ。
いつもそうだ。
此の男は決してこういう事には参加せず、其れ所か浮ついた噂一つさえ流れない。
其れが上司は勿論、部下達も不思議で不思議で仕方なく
堅物を通り越して女気一つ感じられない此の男相手に
まさか男色では無いだろうか??という疑いさえ持たれていたものの―――
部下3「へっへっへ、たまには大佐も一緒に混ざりませんか??スッキリしやすぜ??」
閃一「フ、馬鹿を言え」
彼は誘われる度にこう答えていたのだ。
閃一「俺は家畜と交尾するつもりなど一切無い」
と。
其の、傲慢で常に相手を見下す物言いに部下達も最初は面食らったものの
次第に彼がこういう性格なのだと理解し
部下2「じゃ、俺らだけで愉しませて貰いますね」
社交辞令で一度は誘うものの、後は自分達の好きな様に女の身体を玩び犯し倒していた。
そうして、処罰というなの陵辱は朝まで続いた―――
―――――
―――
女「あ、あぁ‥あっ!!」
部下4「ったく、まぁた壊れちまったじゃねーか」
※薬が強すぎるのか、快感で壊れてしまった女性
ビクビクと絶えず痙攣を繰り返す、虚ろな目をした女の姿に目を向けた部下の一人が呆れた様子でそう言った。
部下2「あー。悪りぃ悪りぃ」
部下4「悪いと思ってるなら最初からやるなよ」
部下3「へへへっ、そう怒るなって」
彼ら―――つまりシュタージに目を付けられた人間は例外なく処罰を余儀なくされる。
ただ
今回運悪く捕まってしまった彼女も処分が決まって居た為、こうして処分を兼ねた薬物投与が時折行われていたので
別段珍しい光景でも無かったのだが
部下5「大佐からも何か言ってやって下さいよ。毎回壊されたんじゃ堪ったもんじゃない」
部下4「そうですよ。たまにはおこぼれがあってもいいじゃないですか。お願いしますよ、大佐」
見目麗しい女を一度きりの使い捨てにするなんて実に惜しい。
そう思った他の部下達は性欲発散と憂さ晴らしも兼ねて美しい女性達をたらい回しにし、己の欲望の捌け口にしようと企んでいたのだ。
しかし
閃一「知った事か。俺には関係無い」
取り付く島も無いくらいあっさりと無関係を装った閃一。
決定権は現場責任者である彼に全て一任されており、彼の一言で是非が決まる。
なので仮に不満があったとしても部下達は其れ以上何も言えない訳で。
部下4「…‥‥言うと思いましたよ」
部下5「ちぇー。相変わらず大佐は冷たいなぁ」
結局、彼らは諦めて女を処理するしか無かったのである。
※良い歳なのだから女くらい作れば良いのに。と言われるが、繁殖は家畜の役目であって自分がする必要は無い。と言って全く取り合おうとしない閃一さん
部下4「あーぁ。俺も味見くらいしたかったなぁ」
部下5「しょうがないさ。大佐は女にとんと興味無いからな」
ぶつぶつと文句を垂らしながらも精液塗れと成り果てた女の身体を丁寧に拭いて行く部下達。
そんな彼らを尻目に、指揮官である閃一がさっさと其の場を後にしようとすれば
部下4「あれ??大佐、もう帰っちゃうんですか??てーか大佐も良い歳なんですしいい加減女位作って結婚とかしたらどーっすか??」
部下5「お、おい?!」
部下4「其れとも冗談抜きで女にキョーミ無いんすか??」
部下の一人が少しも尻込みせず、突然こんな事を言い出したので
真っ青になった同僚の部下が慌てて諌(いさ)めようと口を開きかけるが―――
どうやら其の必要は無かったらしく
閃一「下らんな。興味以前に…繁殖行為は家畜の役目であって俺がする必要は無い」
などと爽快なくらいに一蹴され、部下である男も閉口するしか無くなってしまった。
そうして、閃一が居なくなった後―――
部下5「お前なぁ‥大佐に向かってなんて口の利き方だよ」
部下4「だぁってさぁ。あの歳にもなって女に興味無いなんてイ●ポかゲ/イかのどっちかだろ??気になるじゃん」
部下5「まぁ‥そうだけどさ」
自身の上司が其のどちらにも当て嵌まらない事を知らずに
彼らの間ではこんなやり取りが交わされるのだった―――
―――――
だが、コレは彼―――即ち閃一が行ってきた活動の中の一部にしか過ぎない。
何故なら彼にとって、シュタージとしての活動は謂(い)わば裏の顔であり
愛して止まない国家の繁栄を願う故の歪んだ行為だったからだ。
そして表の顔
つまり資産家としての彼はまた違う形で―――
しかし表向きは正統で、まさに善良な一市民として国家の繁栄へと繋がる様な活動を水面下で行っていたのだが―――
―――――
※と、頑なに女を作ろうとしなかった閃一さんが何も知らずに帰宅すると
其処に目を付けられるなどと
よもや思いもしなかった。
閃一「…‥‥」
久方ぶりに帰って来る我が家。
と、言っても
伴侶どころか家族もペットも居ない彼の住居は当然人気が無く
帰宅した所で『おかりなさい』の一言も無い、ただ寝食する為だけの存在だった。
ところが―――
※将校という立場であり、加えて不在の多い彼の元に一通の手紙が届く
閃一「またか」
ドイツ将校、つまり大佐であり
加えて名高い資産家であり企業人でもある彼の元には毎日毎日何通もの手紙が届くのだ。
其れは融資を募る申し出だったり、或いは後ろ盾欲しさに懇意になろうと試みる下心まみれの手紙だったり、或いは玉の輿を狙おうとする連中からのお誘いが大半だったのだが―――
※其れは他国でありながらも閃一さんにとっては強力なパイプ役である資産家からの紹介状だった
閃一「…‥‥ん??」
何気なく覗いたポストの中に有った一通のシンプルな手紙が、幸か不幸か閃一の目を惹いた。
閃一「コレは‥」
差出人は誰だ??
ふと気になって裏を見れば、其処には見知った名前が綴られているでは無いか。
相手は何と―――
閃一「珍しいな。此の男が個人的な手紙を寄越すなんて」
仕事上で知り合った、他国の資産家であり閃一にとっては強力なパイプ役でもある男からの手紙だった。
閃一「フ、ン。何を企んでいる??」
けれど個人的なやり取りなど今まで一度として試した事が無い。
其れ所か―――
※先日の件があったばかりなのに思わぬ形で『女性』を紹介され、可笑しくて堪らない閃一さん
閃一「成程。コレは面白い冗談だ」
手紙の内容にざっと目を通した閃一がハッ。と鼻で笑ってやりたくなる程
其の内容は彼にとって滑稽だったのだ。
閃一「俺に是非とも紹介したい女が居る、だと??全く笑わせてくれる―――」
君に是非とも紹介したい素晴らしい女性が居る―――
手紙にはそう綴(つづ)られていた。
だが当然、女に一切興味が無く
其れ所か立場が立場である為に『女は男を騙す生き物。だから決して深入りはしない』事を信条としていた閃一にとって
其の手紙に添えられた言葉は警戒に値すべき危険な誘惑として認識されたのだ。
閃一「もう少し賢い男だと思っていたが―――君には失望したよ」
「俺が何の為に友人も伴侶も作らずに居ると思っている??」
「答えは単純だ。相手に下心があるか無いか、其れを見極める為に過ぎん」
特に女を紹介し合う親しい間柄でも無ければ、プライベートを共有している訳でも無い
そんな相手からの紹介なんて何らかの利害が絡んでいるとしか思えない。
ましてや相手は自分と同じ資産家だ。
金持ちの考える事など金持ちからしたら手に取る様に分かる事だ。
女を通して絶対的な繋がりが欲しい、そんな明け透けな下心に気付かない方が寧ろ可笑しいだろう。
其れでも―――
閃一「だが。敢えて誘いに乗ってやるのも其れは其れで一興か‥‥」
好奇心が勝ったのか
用心深く、慎重で、其の上卑劣な手口を好む此の男にしては珍しく相手の誘いに乗る事を選んだのだ。
まるでゲームを楽しむかの様に。
閃一「見定めてやるとしよう。其の女が…果たして俺に相応しいかどうかを、な」
けれど彼は気付けなかったのだ。
其のゲームに乗る、と決めた時点で
もう既に自分が恋のゲームに負けて居た事に―――
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