SSS

混部、パラレル、人外、狂った設定など何でもアリです。ご注意。
◆ラバーズ戦後C 

目の前でかつての同僚のスタンドが遥か彼方に吹っ飛んでいくのをダンは見た。
自分のスタンド能力はDIOの配下の連中にはある程度共有してある。
我がラバーズは能力が多少知られても対策がしづらい。非戦闘系のスタンドを持つ自分がナメられない為にはカウンター系の能力だと事前に知らせてやった方が絡まれずに済むのだ。
それを知っているDIOの配下のスタンド使いはダンがスタンドを出していない時を狙った。不意打ちだ。
殺気を感じたダンが咄嗟に己のスタンドを出すよりもずっと速く、視界の外からやってきたスタープラチナの拳が襲い掛かる相手を殴り飛ばしていた。
あまりのスピードに状況を把握しきれないダンだが一緒瞳に捉えた精神のビジョンは紛れも無くDIOの館で交流のあった同僚のスタンドそのものだった。今はもう再起不能であろうが。
ダンの意思と関係は無い。だが彼がジョースター一行と旅を共にしている"事実"は早くもDIOの耳に届いていた。
【ダンは承太郎と仲が良い様子です。
宿泊の際は毎度同じ部屋にあてられています。道を歩く時も飯を食う席もダンの隣に肩を並べているのは承太郎ですね。よっぽど気が合うんでしょうか】
側から見れば裏切り者にしかみえない。そんな自分にはいずれ刺客が送られてくるであろうと予測はしていた。が実際に自分が用済みとして処理されようとした現実にダンはショックを受けていた。本来ならその役割は自分のものであったから。
そして動揺して声も出ないダンに承太郎は言うのだ。まるでこなしたおつかいを褒められたい幼子の様な、期待と媚びを含んだ声色で。

「怪我は無いか?安心しろ。オメーを狙う輩は俺が必ず殺す。今だって再起不能なんかじゃねぇ。殺ってやったんだ──」


続きます

2022/04/22(Fri) 21:36 

◆◆無題 

「何を食っている」

目が見えないハズの同僚は僅かな咀嚼音に気がついていた。盲の聴力は異常発達するってホントなんだな。映画の世界の話だと思ってたぜ。
俺は喉が渇いてた。けどこんな不衛生な場所で買う水なんて腹を壊すに決まってるッ!だって都会育ちの俺様は繊細なんだもの。
代わりに買った葡萄をちまちま食らう音を同行人のンドゥールは敏感に聴き取っていたらしい。

「ン。葡萄」

「食い物の正体を聞いている訳では無い。戦闘に向かう道中で悠長に物を食う貴様の気が知れんと言っているのだ」

うわ真面目かよッ。俺は葡萄の皮を吐き出すついでに舌を出した。ゲーって奴だ。

「瑣末な任務といえど結果としてDIO様の未来の礎になるだろう。くだらん私欲を何故束の間抑えていられない?」

ンドゥールは携えている杖を地面に打ち付けて何度も鳴らした。
テメーこそ少しは苛立ちを抑えたらどうだ。俺はンドゥールへの認識を改める。
顔合わせの第一印象では寡黙で穏やかそーなヤツだと思ったが外見とは裏腹にコイツは相当気が短い。
些細な事でキレるDV気質だな。
きっと女にはモテねぇ。


ンドゥールとお前が言うなのアレッシー ーエジプトの街

2022/04/19(Tue) 02:14 

◆◆ラバーズ戦後B 

「新しい仲間だ。思うところはあるだろうが仲良くやってくれ。必要な男だ。」

ジョースター一行への顔合わせは承太郎のあまりに簡素な紹介で始まり、そして終わった。
花京院やジョセフの驚愕した表情を見るにダンは今更になって自身の随行が承太郎の独断であると知った。
当然の事だが承太郎の仲間達は口々にダンを旅の仲間に加える決定を非難した。対して承太郎そのどれらの正論にも頑として耳を貸さない姿勢だった。
誰よりも賢く強いはずの男の有様に仲間達は何者かのスタンド能力で彼が操られている可能性を語り合った。
そうだろう、とダンは密かに同意した。
ふとした瞬間こちらを見つめる承太郎の瞳は奇妙な熱を孕んでいる。再起不能にされる直前に見たウザったらしい程の正義の光は今はもうどこにも見当たらない。
代わりに感じるのは腹の底をチリチリと焼かれる様な仄暗さだ。
もう奴と目を合わせる勇気など無い。恐ろしくて恐ろしくてダンは承太郎を視界の端に捉えるのが精一杯だ。
たかが数日間でこの男に何があった?DIOの部下のスタンド使いが何がやったに違いない。そうでないとおかしい。
おかしいだろう。敵であるダンの肩にそっと優しく手を添えること。まるで仲間達の敵意からダンを守るかの様に。
気持ちが悪い。が承太郎の機嫌を損ねるのを恐れたダンはその手を振り払いはしない。


続きます

2022/03/12(Sat) 23:10 

◆なりそこない寄せ集め@ 




「お前にも生きる権利があるだろうから言っておく。
ギアッチョが頭痛の素振りを見せたら逃げろ。過去に二人、それで死んだ。」

リゾットは冗談や誇張を使わないのだ。
ペッシの喉がごくりと鳴った。




「どーしてオメーに化けるのかってェ?別に理由なんか無いッスよ。
強いて言えばオメーのタッパが何をするにも便利だからとかそんなもんスかね。
あーあやっぱオメーとは会話したくねーッって感じだなッ。もう行っても良いッスか?」




思ったよりも本物だ、と気がついたときにはもう遅かった。
プロシュートはその捕食者たる鋭い眼光でメローネを離そうとはしなかった。
メローネは自分が引き際を見誤ったことを知った。




「何を間抜け面してジロジロ見てるんだッ!
僕は見世物じゃあないぜッ。」

「サ、サーフィス!露伴先生に何てこと言うんだ、取り消せったら!」

「いーや言わせてもらうねッ!
オイ、さっきはよくも汚い手で人の体をベタベタ触ってくれたな。
しかも何だ、黙って聞いていれば間田さんをちんちくりんだと!?
露出狂まがいの格好で表を出歩く奴のどの口がそんな偉そうな事言えるんだ、このスカタンッ!」

「…なるほど。普段自分が人にどう見えているかがよーく分かったよ、間田君。」

「お、落ち込まないでくださいよ先生!!」



SSSになりそこなった文章の断片たち

2013/11/27(Wed) 21:32 

◆オレの兄貴は兄貴じゃない 



「あ、兄貴ィ。すまねぇオレ、ターゲット見失っちまって…」

「よう遅かったな。オメーがチンタラやってる間にこっちはもう終わっちまったよ。」

蹴りの五、六発は覚悟していただけに肩透かしを食らった気分だった。
兄貴の右手には血がついている。まだ乾ききっていない。
ブランドスーツが汚れるのも構わず、その手をポケットに差し込んだ。若干潰れた煙草の箱が取り出される。
兄貴は身体や服に血がつくのを嫌っている。
なのに手が血液でまみれたまま、煙草に火をつけるなんて…。

「兄貴、その…。血、拭かないんですかい?」

「…どうしてそんなことを聞く?」

「だって、兄貴。いつもは血がついたまま煙草吸わないでしょう。
いいや違う。仕事中にも絶対吸わない…スよね?」

はは、と兄貴がいつもとは違う笑い方をする。
どうしてだろう、さっきから寒気が止まらないのは。

「ただの木偶の坊かと思ったらなかなかどうして…。
えーとお前の名前何て言ったかな?
アイツが死ぬ間際に逃げろなんて叫んでたけど、忘れちまってさ。」



ペッシと兄貴じゃない誰か―ネアポリス市内

2013/11/26(Tue) 09:46 

◆1999/12/31の出来事 B地点 



真昼のはずであるのに外が薄暗くなり、地面の揺れが始まると玉美の騒がしさも一層酷いものになった。

「じじじ承太郎さんゥ!揺れてるッ!揺れてますってェこの部屋ー!」

承太郎が長期で滞在している部屋は上層階のデラックスダブルである。
地上からの距離も相当なものだから、その分揺れの大きさも比例するだろうと承太郎は冷静に玉美に説く。

「どーして承太郎さんはそー平静でいられるかなッ!?世界が、終わろうとしてんスよォ!
くっそお火曜発売のグラビアまだ見てねーぜッ!あぁ揺れが酷くなるゥ…もうおしまいだぁ。」

玉美は絶望のあまり座っていたサイドチェアから力無く床に転がった。
涙よりも先走った鼻水が英国製の絨毯に染みをつくる。玉美の年収の数倍はするそれも、あと十数分後には塵と化しているだろう。

承太郎といえど恐ろしくないと言えば嘘になる。
が世界の終わりが来るのは半日前に分かっていたことなのでそれなりに心の準備というか死への覚悟が出来ている。
承太郎は僅かな余生の目標を、目の前の男を落ち着かせることに定めた。

「玉美くん。君とはあまり話す機会が無かったな。だがクジで決まったとはいえ最後の時をこうして共に過ごしているということは俺達にも奇妙な縁が…」

「わーッ!わーッ!勝手に締めに入らないでくださいよォ!!
最後だなんてぜぇっったいオレは認めないぜェー!」

逆効果だった。玉美は耳を塞いでその場をのたうちまわる。
承太郎は人間の限界を悟って備え付けの小型冷蔵庫から缶ビールを二本取り出すと、一本は玉美の側に置いた。
「せめて隣がカワイこちゃんだったら…」なんて言いつつもちゃっかり短い腕は缶ビールに伸びていく。
そう間を置かずプルタブが開く音が聞こえた。
目標も達成し終えたので、承太郎は自分の分の缶ビールを開けて走馬灯が始まるのを待つことにした。



世界滅亡寸前―杜王グランドホテル―承太郎と玉美

2013/11/25(Mon) 12:07 

◆珍しくその日はアジトに誰もいなかった 



「今のは、今のは違う。なぁペッシお前は出来る奴なんだから分かるよな?俺が言ってる意味が。」

一番やってはならないことを、やってしまった。
プロシュートの頭の中では騒がしく警鐘が鳴っていた。
焦りが身体中を駆け巡って背中に嫌な汗をかく。
こんなに追い詰められたのは何時ぶりだ?
視線の先、狭いアジトのリビングの隅にペッシの姿があった。
少しでもプロシュートから距離をとろうと対角線上の壁際に背中を押し付けて、震えている。
先程プロシュートに強引に奪われた唇は形の悪い前歯で強く噛み締められている。大きな瞳からはついに涙が溢れ出した。
その場から逃げ出さないのは単に、プロシュートが出入口側に立っているからだ。

「ペッシ、何も泣くことねぇだろうよ。なあ別にお前が思ってるようなそんなつもりじゃねぇんだ。
ガキ同士の戯れじゃねぇが…お前はこの世界に入って日が浅いからな。仲間内では冗談みたいなもんなんだ。
ただ少しふざけただけだ、俺の言うこと分かるな?ペッシ。分かるよな…だからいい加減そんな目で俺を見るのを止めろ!」

焦りに任せて怒鳴ってしまってから、またもや自分が取り返しのつかない失態をしでかしたことに気がついた。
「ひっ」と短い悲鳴をあげてペッシが身をすくませる。
その顔は鼻水と涙にまみれていて、今までどんな過酷な仕事でもここまで怯えた様子を見たことは無かった。
どうしてこの恋慕を心の内に秘めておけなかったのか。その上主義に反した言い訳までわめいているあたり自分はもう、兄貴分として終わっている。
ペッシの歯が震えによってカチカチと音をたてた。
職業上耳に馴染んだその音を聞いていると、プロシュートはいよいよ望んだ関係が夢物語であったことを痛感せざるを得なくなる。



襲いかけたプロシュートと襲われかけたペッシ――アジト、リビングルームにて

2013/11/19(Tue) 15:47 

◆死ぬには惜しい夜 



男はアメリカにいた。
数年前までイタリアで裏の仕事をしていたが所属していたチームの解体と共にアメリカへと亡命した。
自分以外に二人、チームの生き残りがいるはずだった。
初めの頃はそれを支えに男は生きたが亡命の直前自分が入院している間に二人とも死んでいたことを後に知った。
どうして俺は生きているんだろう。男は生きることに怠惰になりはじめた。
好んで着ていた奇抜なブランドは地味で安物のダークスーツへと変わった。
伸ばしていた髪もこめかみまで刈り込んだ。
本気で追っ手から隠れようと思ったなら整形や瞳の色を変えたりなど他にすべきことは山のようにあったが生への執着の薄れが男の行動をおざなりな変装に留まらせていた。
男は片田舎のチンピラチームに端金で使い走りに使われていた。
前のチームとは待遇も規模も雲泥の差だった。
何かにつけてもうこの世にはいないかつての仲間たちが思い出されて、男はいつもそれを無理矢理意識の底に沈めた。
使い走りの仕事は稀に暴力沙汰に発展することもあったが、ほとんどが欠伸が出そうな集金作業だった。
自分のスタンドももう長い間発動させていない。
男に不満は無かった。
殺し殺されなんてものにはほとほと疲れていた。
男は疲れきっていたのだ。
いつ追っ手に見つかるかわからないこの状況も、生きている理由をこじつけることも。
もはや泣くことすら出来ないくらいに。


ある日男は夢をみた。
かつての仲間たちとかつてのアジトに男はいた。
八人の仲間たちは食事をしているのだけど何故か男の席だけが無かった。
テーブルの隣で立ち尽くす男を差し置いて食事は始まった。

「俺も食いたいんだけど」

男が口を挟むと八人全員が皿から顔を上げた。
気まずい雰囲気が流れてから、おもむろに仲間の一人が口を開いた。

「毎年言ってる気がするけどよォ、テメェはそっち側にいるんだろ。
俺たちと一緒に食えるワケねぇだろ、クソッ!
というかどうして毎年この日だけ現れるんだ?
納得いかねぇだろ!クソッ!クソッ!」

それが何のことを言っているのか男には分からなかった。だが仲間の顔や声がどうしてだか涙が出るほど懐かしかった。




なにか夢をみていたはずなのに思い出せないことが男にはたまにある。
懐かしい夢だったことはわかる。それ以上が思い出せない。
そんな夢をみた後は不思議と抱えた疲れが少し楽になっている。
昨晩はハロウィンだったことを男が知ったのは一日の夜になってからだった。
カレンダーを破くついでに気が付いたのだ。




生存メローネと死んでしまった仲間たち―ハロウィンの夜

2013/10/31(Thu) 15:28 

◆サーフィスは金曜日が好き 



「帰るぞ、サーフィス。」

「うぃっス。」



間田さんが迎えに来てくれる頃には外は薄暗くなっていた。
人目につくと面倒なので間田さんは下校時間もとっくに過ぎて、校舎に人の気配が無くなったのを見計らってロッカーの扉を開けてくれる。
「面倒だ」とか「何で俺が」とか小言は多いっスけど毎週忘れず迎えに来てくれるあたり大事にされてんだよなァー。
こういうのを愛って言うンだろーな。
なんて思った途端に「持ってろ」とやたら重い学生鞄を押し付けられた。
うへッ!テメェの物くらいテメェで持ってくださいよ間田さんーッ!


校舎を出るとオレたちは出来るだけ人通りの少ない道を選んで進んだ。
先週「スタンドのくせに俺の前を歩くなっ!」なんてプッツンされたばっかりだからオレは間田さんの一歩後ろを歩く。
まったくドコのガキ大将のセリフっスか。
サルのパーマン2号ですらもうちょい人間らしく扱われてるってモンだぜー。


家は目前という所まで来て突然間田さんが「ゲッ!」とカエルが潰れたような声を出した。

「どーしたんスか。犬のクソでも踏んだの…ゲゲッ!仗助のヤローじゃあないスか!」

誰がテメェを粉々にした奴を見間違えるかよ。
暗くて分かりにくいが数十メートル先からあのクソッタレ仗助がこちらへ歩いてくる。
例の一件からまだ日は浅いから出会ったら最後衝突は避けられんというヤツだぜ。

「このままじゃハチ合わせッスね。どーします間田さん。
避けようにもココ一本道でっせ〜。」

「うるさい、わかってる!!
…別にこっちは悪い事してるんじゃねーんだ。
普通にすれ違って普通に帰ればイイんだよ。」

言ってるコトは頼もしッスけど声震えてるぜ、オメー。
まったくしっかりして欲しいよなァー。
こんなのが本体かと思うと時たまムショーに悲しくなるぜ。
でも間田さんが苦しむのを見ンのはなんというか「とにかく耐えられねーッ」て感じだな。
ま、ちゃーんと助けてやりますから。大船にのったつもりで安心してくださいよ間田さんッ!





とある金曜日―サーフィスと間田、せまる仗助―杜王町住宅街にて

ちなみにパーマン2号はサルではなくチンパンジーです。

2013/10/25(Fri) 19:32 

◆Jの悲劇 


朝。定助と常秀はよく洗面所で鉢合わせする。
洗面所に入ってきた定助を鏡の端に捉えながらも常秀は声ひとつ掛けない。

朝の挨拶を先にすべきなのは居候のコイツであって由緒正しい東方家の次男の俺ではないというのが常秀の持論だった。

いつもなら、常秀の持論を知ってか知らずか定助の方から「おはよう」と一言掛かる。
それに常秀が「ああ」と尊大に返して関係の均衡が保たれていた。
だが今日の定助は洗面所に入ってきたきり常秀の背後にじっと幽霊の様に佇んでいる。無言で。ただじっと。動かない。
均衡なんかすぐに崩れた。

「何なんだよ、テメーはよッ!
朝っぱらから気色悪い!
洗面台なら隣が空いてんだろ!」

逆立った感情を隠そうともせず常秀は怒鳴った。
定助はたまにこういったイレギュラーなことをする。
人とズレたその行動が常秀には薄気味悪くて仕方がない。嫌いだ。

「違う。オレは洗面台を使いたいんじゃない。
いや悪い、本当は使いたいんだ。
だけどそれは後でいい。
今はアンタと話がしたい。」

お互いの視線がしっかりとかち合うのを確認して、定助はするりと常秀の隣に立った。
このいちいち回りくどい言動が嫌いなんだよな、コイツひょっとして俺の嫌いな物だけでできてるんじゃあないかと常秀は思う。

「で、何だよ。話って。
ナンカ俺に文句でもあんのか、居候。」

常秀が横目でじっとりと睨み付けると、定助は少し迷った素振りを見せた。
探るような目付きでこちらを窺う、が口を開こうとしない。
本当に何なんだ、コイツ。

「オイ、いい加「本当は待つつもりだった。アンタのペースに合わせようって。」

言葉がポトリと落ちてきた。
常秀が先を急かすまでもなく、一度開いたら最後それは滝のように怒濤と流れ出す。

「毎朝、アンタが鏡越しにオレに色目を使ってきてるのには気が付いてた。
そういう趣味なのは驚いたけど、別にアンタの性癖なんてどうでもよかった。
ただ対象が何でオレなんだフザけんなぁって思ったね。
でも何故だろう。毎朝洗面所で会う度「別にアンタとでも良いんじゃあないか」と思い始めて、こういうのをほだされるっていうんだろうな。
とにかく本題だ。アンタはオレがオーケーしてやったにも関わらず康穂ちゃんばかり追い回してる。
間違っても一夫多妻主義だなんてフザけたことはぬかすなよ。
好きだのなんだのと先に言い出したのはどっちだ?
誘ったからにはそれなりに責任をとってもらう。行動で示せってことだ。
いい加減オレ達は進展しなくてはならない。
アンタがオレの部屋に来てもいいけどそれだと家族に聞こえたらマズイだろう。
オレ、アンタが好きだから気を使ってるんだ。
だから今夜オレがアンタのガレージに行く。
逃げるなよ。逃げても捕まえる。絶対に。
以上。話はそれだけだ。
洗面台、使わせてもらう。」


言い切るなり定助は洗面台に向き直り、勢い良く蛇口を捻った。
定助が顔を洗う間、常秀は働かない頭で今日の日付を確認した。
顔を洗い終わった定助が「今のはすべて冗談だ」と言うのを待った。
だが本人は何も言わないまま、常秀の顔すら見ずにさっさと洗面所から出ていってしまった。




ある朝―いつも通りの常秀とクレランボー症候群の定助―東方家洗面所にて

2013/10/22(Tue) 23:05 

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