―暗闇の中…一筋の安寧―

□―暗闇の中…一筋の安寧―
2ページ/9ページ


手をそっと後ろについて気怠い身体をゆっくりと起こす。

「兵長…よかった…苦しそうにしているのに、
中々目を覚ましてくれないから……」

そう呟くとエレンはリヴァイの頬に手をやり、
親指で口唇の血を軽く拭った。

「口唇切れちゃってますね、このハンカチ綺麗なんで、
これで拭って下さい」

エレンは柔らかいハンカチをそっとリヴァイの口元に宛てがった。
覚醒したばかりのリヴァイは、
まださっきの暗闇に居た嫌な感覚が身体にリアルに残っている。

そして何故今、エレンが自分の目の前に居るのか。
表情には出さないが、少々混乱していた。

リヴァイはエレンに何か言おうとしても、
俯いたまま言葉に出来ないでいた。

宛てがわれたハンカチに手をやると、
エレンの熱を少し帯びた指が触れる。


「兵長…本当に大丈夫ですか……?」


エレンは小さく震えているリヴァイに気がついていた。
触れた指先からもほのかに伝わってくる…
身体も強ばっているように感じた。

この人は遠征の度、部下を失う度、

独り夜中にこうやって苦しんでいたのか……

血が出るまで口唇を噛み締めて……


そう思うととてもじゃないが、
自分の話など切り出す気が起きなくなった。


普段は小柄でも、その強さから大きく見えていたリヴァイが
今はとても小さく見えてしまう。
俺はこの人に何をして上げられるのだろう。
指先からまだ震えを感じる。
リヴァイはまだ何も応えてくれない。

エレンはリヴァイの頬から手を離すと、
両手で肩を掴んでゆっくりと彼の身体を抱き寄せた。

「す、すみませんいきなり」
「……」

「昔子供の頃にミカサが…両親を失った後たまに
夜中震えていた事があるんです」
「泣いてる時もありました…そういう時俺はアイツが眠るまで
手を握ったり肩を抱き寄せたりしていた事があるんです」

抱き寄せる腕に少し力が入る。

「すみません、俺こういうやり方しか思いつかなくて……」

長く味わってなかった人肌の温もりに、
その心地良さに、リヴァイはゆっくりと目を閉じた。
そのままエレンの肩にポフリと顔を埋める。
そして両手をそっとエレンの背中に添えた。

…この状況に嫌悪しない自分にリヴァイは不思議でならなかった。

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ