恋物語

□【第一章】やがて世界は変革を遂げる
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新鮮な空気、暖かい日差し。


チュンチュン…と、小鳥の鳴く声で目覚めた、聞こえだけは素晴らしい朝。



「……んぅ」


ここは一体どこなんだろう?


上手く回らない頭の回路が、必死に昨日までの記憶を探り出そうとする。



確か私、夜遅くまで芽衣ちゃんを探してて……それで………。




それで?



………あ、そうだ。

公園のベンチで項垂れてたら、変なお兄さんに声を掛けられて。


『その探し物なら、知っているよ』


そう言われて、それで……。




やはり上手く思い出すことができない。


現在地すら分からない状態で、私は一体何ができるのだろう。

心なしか頭がズキズキ痛む。


とにかく、記憶が途絶える前までの登場人物の、あの変なお兄さんはこの辺りにいないのかな?

キョロキョロと見回してみるけれど、姿はどこにも見当たらない。


変なお兄さんどころか、人っ子一人もいない。

景色もなんだか歴史的建造物のような、古風な感じがする。


私、本当にどこへ来てしまっているのだろう…?


一度考えてしまうと、不安になってくるのが人間。

いてもたってもいられず、私は寝かされていた公園のベンチから立ち上がる。


よく見てみると、昨晩見た公園ともまた違うように思えた。

だけどなぜか、昨晩見た公園の風景すら思い出せない。


つい何時間前くらいの話なのに?



心に余裕がなくなってきて、とりあえず公園の出口を探し、歩く。


やっと見つけた出口付近に(なんだかとても広い公園みたい)、



[日比谷公園]


という看板が立っていた。

日比谷公園……?


名前すら聞き覚えがない。
本当に私はどうしてしまったのだろうか?


とにかく、公園の外へ…………



「公園から出たら迷ってしまうよ〜、お嬢さん」



ふと、後方から聞こえた声。


既に恐怖を覚えている私は、バッと勢い良く声のする方へ向いた。


そこには、見覚えのある変なお兄さんがいた。



「やぁやぁ、目覚めはどうだった?お嬢さん♪
公園に放置したのは申し訳ないと思っているよ。」


「あ、お、お兄さん!!!」


顔見知りに出会えて、心にゆとりが出来た。

と言っても、まだこの人が信用できる人間とは思えないけれど、

この状況では、この怪しいお兄さんを信用するしかない。


「こ、ここはどこですか⁉︎ 私確か昨晩、人探しをしてたと思んですけど、いつの間にか寝ちゃってて……‼︎」

「まぁ落ち着いて、那緒ちゃん‼︎ 焦ると良いことないよ〜?」

「そんなこと言われても……って、え?
わ、私の名前、どうして?」


その変なお兄さんは、にっこりと清々しい笑みを浮かべて意気揚々と言った。


「少しだけ、荷物をいじらせてもらったよ♪」


「…と、言いましても私、荷物という荷物は持ってないんですけど……」


「物は必要ないさ!記憶を少しだけ覗かせてもらったよ」


「ああ…成る程。そっちですか……いや、どっちですか」


「ふふふ、ノリツッコミが冴えてるね、那緒ちゃん」


ノリツッコミを褒められた。

微妙な心境である……。


「いえ、そんな事よりお兄さん、記憶を覗いたってどういうことです?」

「んー、なんて言うんだろうね?」


お兄さんはおどけたような身振り手振りで、大袈裟に話す。


「僕ってほら、奇術師だから」

「いや、初耳ですけど……」


どうやらお兄さんは、奇術師らしい。

まぁ当然、突然そんなこと言われても信じれるわけないが。


「お兄さん、もうなんでもいいです、とにかく探し物の場所‼︎

お兄さん、芽衣ちゃんの場所知ってるんでしょう⁉︎」


記憶がなくなる前のあの一言。

『その探し物なら、知っているよ』

それは確かに覚えている。


私はとにかく、何が何でも芽衣ちゃんを探さなければいけない。

芽衣ちゃんは私を助けてくれた。


だから、今度は私の番なんだ。



「今度はやけに潔いねぇ、いいさ、そういう子は大好きだよ」


変わらない薄い笑みを浮かべ、なかなか本題を切り出そうとしないお兄さん。じれったい。


「うん、確かに知ってるよ、芽衣ちゃんの場所」


「っ!!!!」


やっと、見つかる……!!!

この一ヶ月、ずっと探し続けてきた芽衣ちゃん。

無事に見つかる………



「だからホラ、芽衣ちゃんのいるところに連れてきたじゃないか♪」


…………………は?


「いやいやお兄さん、どうみても周りに人はいないし、ましてや芽衣ちゃんなんて………」


「確かに、日比谷公園にはいない」


お兄さんは、突然真面目な表情で言い放った。



「だけど、この『時代』にはいる。



まだ気付いていないようだけど、那緒ちゃん、ここは、明治の東京さ♪」






芽衣ちゃん、やっぱりもう少しだけ時間が掛かるみたいです……。

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