恋物語
□【第一章】やがて世界は変革を遂げる
1ページ/1ページ
新鮮な空気、暖かい日差し。
チュンチュン…と、小鳥の鳴く声で目覚めた、聞こえだけは素晴らしい朝。
「……んぅ」
ここは一体どこなんだろう?
上手く回らない頭の回路が、必死に昨日までの記憶を探り出そうとする。
確か私、夜遅くまで芽衣ちゃんを探してて……それで………。
それで?
………あ、そうだ。
公園のベンチで項垂れてたら、変なお兄さんに声を掛けられて。
『その探し物なら、知っているよ』
そう言われて、それで……。
やはり上手く思い出すことができない。
現在地すら分からない状態で、私は一体何ができるのだろう。
心なしか頭がズキズキ痛む。
とにかく、記憶が途絶える前までの登場人物の、あの変なお兄さんはこの辺りにいないのかな?
キョロキョロと見回してみるけれど、姿はどこにも見当たらない。
変なお兄さんどころか、人っ子一人もいない。
景色もなんだか歴史的建造物のような、古風な感じがする。
私、本当にどこへ来てしまっているのだろう…?
一度考えてしまうと、不安になってくるのが人間。
いてもたってもいられず、私は寝かされていた公園のベンチから立ち上がる。
よく見てみると、昨晩見た公園ともまた違うように思えた。
だけどなぜか、昨晩見た公園の風景すら思い出せない。
つい何時間前くらいの話なのに?
心に余裕がなくなってきて、とりあえず公園の出口を探し、歩く。
やっと見つけた出口付近に(なんだかとても広い公園みたい)、
[日比谷公園]
という看板が立っていた。
日比谷公園……?
名前すら聞き覚えがない。
本当に私はどうしてしまったのだろうか?
とにかく、公園の外へ…………
「公園から出たら迷ってしまうよ〜、お嬢さん」
ふと、後方から聞こえた声。
既に恐怖を覚えている私は、バッと勢い良く声のする方へ向いた。
そこには、見覚えのある変なお兄さんがいた。
「やぁやぁ、目覚めはどうだった?お嬢さん♪
公園に放置したのは申し訳ないと思っているよ。」
「あ、お、お兄さん!!!」
顔見知りに出会えて、心にゆとりが出来た。
と言っても、まだこの人が信用できる人間とは思えないけれど、
この状況では、この怪しいお兄さんを信用するしかない。
「こ、ここはどこですか⁉︎ 私確か昨晩、人探しをしてたと思んですけど、いつの間にか寝ちゃってて……‼︎」
「まぁ落ち着いて、那緒ちゃん‼︎ 焦ると良いことないよ〜?」
「そんなこと言われても……って、え?
わ、私の名前、どうして?」
その変なお兄さんは、にっこりと清々しい笑みを浮かべて意気揚々と言った。
「少しだけ、荷物をいじらせてもらったよ♪」
「…と、言いましても私、荷物という荷物は持ってないんですけど……」
「物は必要ないさ!記憶を少しだけ覗かせてもらったよ」
「ああ…成る程。そっちですか……いや、どっちですか」
「ふふふ、ノリツッコミが冴えてるね、那緒ちゃん」
ノリツッコミを褒められた。
微妙な心境である……。
「いえ、そんな事よりお兄さん、記憶を覗いたってどういうことです?」
「んー、なんて言うんだろうね?」
お兄さんはおどけたような身振り手振りで、大袈裟に話す。
「僕ってほら、奇術師だから」
「いや、初耳ですけど……」
どうやらお兄さんは、奇術師らしい。
まぁ当然、突然そんなこと言われても信じれるわけないが。
「お兄さん、もうなんでもいいです、とにかく探し物の場所‼︎
お兄さん、芽衣ちゃんの場所知ってるんでしょう⁉︎」
記憶がなくなる前のあの一言。
『その探し物なら、知っているよ』
それは確かに覚えている。
私はとにかく、何が何でも芽衣ちゃんを探さなければいけない。
芽衣ちゃんは私を助けてくれた。
だから、今度は私の番なんだ。
「今度はやけに潔いねぇ、いいさ、そういう子は大好きだよ」
変わらない薄い笑みを浮かべ、なかなか本題を切り出そうとしないお兄さん。じれったい。
「うん、確かに知ってるよ、芽衣ちゃんの場所」
「っ!!!!」
やっと、見つかる……!!!
この一ヶ月、ずっと探し続けてきた芽衣ちゃん。
無事に見つかる………
「だからホラ、芽衣ちゃんのいるところに連れてきたじゃないか♪」
…………………は?
「いやいやお兄さん、どうみても周りに人はいないし、ましてや芽衣ちゃんなんて………」
「確かに、日比谷公園にはいない」
お兄さんは、突然真面目な表情で言い放った。
「だけど、この『時代』にはいる。
まだ気付いていないようだけど、那緒ちゃん、ここは、明治の東京さ♪」
芽衣ちゃん、やっぱりもう少しだけ時間が掛かるみたいです……。