その後の3Zのその後

□中二病はこじらせると厄介
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3学期の終業式前日。この春休みから産休に入る月詠は代理のさっちゃんに引き継ぎを行っていたため帰りが少し遅くなった。学校から徒歩で30分ほどの自宅の前までたどり着き灯りのついた窓を見上げる。先に帰宅した銀八がさっさとくつろいで、もしかしたら出来あがっているかもと苦笑しながら鍵を開けた。
「ただいま…?」
「おかえりー」
月詠は玄関に入って美味しそうな匂いがしたことに眉を寄せる。食事は銀八の役目となっているので夕飯が用意されていることはなんら不思議はないのだが、出来たての雰囲気がしたことに違和感を感じた。いつもなら彼は月詠の帰りが遅い時は先に食べてしまっているのだ。リビングに入りさらに月詠は驚いた。
「どうしたんじゃ?このご馳走…」
だいたい二・三品あればいい方の食卓に今日はテーブルいっぱいの料理が並んでいた。しかも月詠の好物ばかりだ。
「お前明日で一応仕事納めだろ?お疲れさんっつーことで」
「ぬし…こんな洒落たことできたんじゃな」
「うるせー。さっさと荷物置いてこい。俺ァ腹ぺこなんだ」
月詠がからかうとぶっきらぼうな口調で言う銀八。そんな彼がおかしくて月詠はこっそり笑った。


「食べ過ぎてしまった」
食事を終え、ゆったりとソファでくつろぎながら月詠は言った。
「結構なこった。二人分だからな」
後片付けを終えた銀八が隣に座りながら彼女の大きくなったお腹を見る。
「…銀八」
「!?」
月詠が名を呼ぶと銀八は異様なほど驚いて彼女を見た。
「何をそんなに驚いておるんじゃ?」
「いや…なんか、久々に名前呼ばれたから」
意味がよくわからず月詠は少し考えを巡らし、そう言えば互いに名前を呼ぶことが少なくなっていたことに気づく。
「子供が産まれたらお互いのことお父さんお母さんとか呼ぶようになるんじゃろうか?」
「……気持ち悪ィけどそうかもな」
「よく考えてみればこんな二人の時間もなくなるんじゃな」
「まぁな。つうか元から俺らこんなまったりする時間少ないからいんじゃね」
銀八は缶ビールを開けながら視線はテレビに向かっている。月詠はそれに腹を立てるでもなく、ほんの少し体を傾け彼に寄りかかった。
「どした?マタニティブルーか?」
銀八は茶化すように言ったが、ただの照れ隠しだ。月詠は首を横に振り微笑んだ。
「こんな時間がもう少しでなくなるんなら、ちょっとくらい甘えてみようかと思っただけじゃ」
「月詠…」
月詠が顔を上げると銀八の視線とかち合う。そのままそっと唇を触れ合わせると、すぐさま二人は体を離した。
―ちょおおお恥ずかしいイイイイイイ―
二人とも顔を腕で覆い隠しているが、耳まで真っ赤だ。キス以上のことだってしているというのに、いつまでもこういう雰囲気に慣れない銀八と月詠なのであった。
 

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