キュンしましょ!

□忙しい彼に
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よし、デートしよう。
ドランプはそう決心した。相手はもちろん、つい最近恋人になったエモルとだ。
エモルは雇い主の会社と野球と両立している。そのせいか、遊べる暇がなく、最近では疲れてしまってドランプが遊びに来ても、喋っている途中で寝てしまう。
だからドランプは、デートという口実でエモルを休ましたかった。
(どこがいいだろう・・・?海?季節外れだな。山か?それも季節外れか。ブラブラ散歩ってのは・・・年寄り臭いな・・・)
んー、とドランプが考えていると、どこでもドアが出現した。もちろんエモルが出したのだ。
「ドランプ。こんなの作ったんだけど、食べる?」
それはパイだった。
「おー。旨そうだな」
「でしょ?ちょっと興味があったから、初めて料理してみたんだ」
「すげえな。んじゃあ、一口」
ドランプはキッチンからフォークを取り出し、一口サイズをパクリと口の中に入れた。
すると・・・。
「■〇$%☆▼!!!???」

危うく吐きそうになった。

味は何と言うか・・・不思議だ。あんな美味しそうな雰囲気なのに、どうしてこんな味になるのか。味は、その、あれだ。マグロの身、もしくは、サーモンの身。どちらも単品で食べると旨いのに、何故パイの中にあるのだろうか・・・?
慌てて手で覆い、なんとか飲み込む。
(ま、まず・・・!!こんなの初めてだ・・・)
「ど、どう・・・?」
顔面蒼白になったドランプを心配するエモル。眉を八の字にするのだから、可愛いったらありゃしない。
ドランプは無理矢理笑った。
「う、旨い・・・・は、初めて食べた味だな(ある意味)」
「ホント?それは嬉しいなあ」
いつか弁当作ってあげる、と言われた時は背筋が凍った。

「デート?」
エモルは首を傾げた。殺人パイは置いといて、とドランプはデートの話題を切り出した。
「ああ。そろそろ二人でどっかに行きたいと思わないか?」
「そりゃ、行けたら行きたいけど・・・どこに行くの?」
「それはお前が決めろよ。どこか行きたいところあるか?」
行きたいところかぁ、とエモルはしばらく考えた。
「んー・・・得にないな。色んなところに行ったことあるし。それに、日本だと僕が出たらファンが集まっちゃうし、アメリカだとドランプのファンが集まっちゃうでしょ?」
二人は有名イケメン選手なので、外に一歩出ただけで女性ファンが一斉に集まってきてしまうのだ。
「難しくないか?」
「着せ替えカメラかなんかで変装すればいいんじゃね?」
「何に?」
「・・・何かに、だよ」
「例えば?」
「・・・例えだぞ?悪魔で例えだからな?・・・じょ、女装とか・・・いいかこれは例えだかんな」
「女装?君そんな趣味あったっけ?」
例えだっつーの!!とドランプはクッションをエモルに投げつけた。
「いったぁ〜。怒んないでよ、冗談だし」
クスクス笑いながら、エモルは言った。
「それにさ、僕、仕事とか野球で出掛ける暇がないからそう遠くの方には行けないしさ。まさしく子供に捕まったトンボだよ、僕は。そう考えたら、ね」

エモルの細い手が、ドランプの手と重なる。

「・・・ずっと部屋で一緒にいたいな。トンボは一匹より、二匹いた方が安心するし、嬉しいし、疲れなんて吹っ飛ぶ」

だからドランプが来たら、安心して寝ちゃうんだ。

はにかみながら笑うエモルを直視できず、ドランプは目を逸らした。
(な、何が『疲れなんて吹っ飛ぶ』だよ・・・俺、何もしてねえっての)
「それにさそれにさ。今頑張れば、クリスマスや大晦日は休暇をくれるんだ。それまでは、遊びはおあずけ。だから、君は僕の隣で見守ってくれよ」
ドランプは握る手に少しだけ力を入れた。

「ああ。俺が傍にいてやっから、クリスマスや大晦日は仕事や野球は忘れろよ?」



おまけ。
「あ。今度来たら、またパイ作っておくよ!」
「え゛?」

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