小説(十二国記二次)
□第六章 昔話
1ページ/4ページ
それは、和州の乱から少し経った頃のこと。
陽子は、捕らえられた者達の身内について、浩瀚と話していた。
「呀峰に息子が?」
「はい、今年6歳になるそうでございます」
「で、昇紘には娘がいるんだったな」
「そちらは2歳だそうですよ。それから靖共にも15歳の息子が」
「靖共の息子は行方不明なんだっけ?」
「一年以上前に邸から姿を消してしまい、それきりだとか。持ち物もいくつか消えていたそうですので、自分の意思で出ていったのでしょう」
「お、やるなぁ。あと…、昇紘の娘は母親と暮らしているからいいとして、問題は呀峰の息子だな」
「母親は数年前に亡くなっておりますから、現在は身内がいない状態ですね」
「柴望が引き取ったんだっけ」
「はい。…主上」
「ん?」
「会いに行かれますか?」
「いいの?」
「勝手に行かれてしまうよりいいですから」
「………」
数日後。
陽子は、非公式に明郭を訪れた。随員も最小限にしてある。
州城では、柴望がにこやかに出迎えてくれる。
その後、引き取った幼子を連れてくるために席を外した柴望を見送ったあと、陽子は後ろに控えていた桓堆に話しかけた。
「6歳ということは、桂桂と同じぐらいだな」
「どういう子供なんでしょうね」
しばらくして、柴望が戻ってきた。空色の髪が印象的な子供を連れている。
「その子が…?」
「はい。晴穹と申します」
柴望に紹介された子供はおずおずと頭を下げる。
その様子に顔を綻ばせた陽子は、ゆっくりと口を開いた。
「初めまして、晴穹。わたしは中嶋陽子」
数年後。
「晴穹」
聞き覚えのある声に呼ばれ、9歳になった晴穹は困った顔をした。
「…主上」
「うん、元気そうだな」
この国の主たる少女――今は服装のせいで少年に見えるが――は、ご機嫌で子供の頭を撫でた。
「こんなに何回も来て大丈夫ですか?」
子供に真剣に心配されている主を見て、いつものように護衛としてついてきた桓堆が吹き出した。
ちなみにこの桓堆、少々悪人面のため、始めは怯えられてしょげていた。現在は普通に接してもらえているが、これはひとえに彼の努力の賜物である。