小説(十二国記二次)
□第十章 子供
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以前は波乱続きの国だと言われていた慶も、30年ほど前に復興期から発展期に移行し、この頃はすっかり平和である。
それに伴い、軍を動かす事態も減ったが、かといって一切なくなったわけではない。
和州でも一月ほど前から盗賊団が出没しており、その日は大規模な捕り物があった。
雪條達州師は、夏の長い日が暮れようとする頃にようやく戻って来た。
晴穹は執務室で両将軍を出迎え――、絶句した。
執務室に妙な沈黙が流れる。
「どうしたの?」
ちょうどやって来た桃莉が、謎の沈黙に首をかしげる。そして、中を覗き込み――、同じく絶句した。
――雪條と剋磊に挟まれて、4、5歳の童女が立っていた。
「盗賊団の隠れ処にいたの?」
「ほかにも数人いたんだ。人身売買にも手を付けてたらしい」
「ほかの子は?」
「身元を調査中です。ただ、この子は両親がいないようです」
それで連れて来たのだと剋磊が言うと、桃莉が眉をひそめた。
「じゃあ、どこかの里家にいたんじゃないの?」
「いえ、一味の者に確認したところ、押し入った家に1人で残されていたとか」
「夜逃げ?」
「多分な。改めて里家に入れるにしても、まずは相談しようと思ったんだけどさ…」
雪條がそう言いながら視線を送る。桃莉と剋磊もそちらを見た。
3人の視線の先には、困り顔の晴穹と、彼の膝の上に何故か満足気に座っている幼子がいた。
結局、ひとまずは晴穹がその子供――寧瑛と名乗っていた――を引き取った。と言うのも、引き離そうとすると寧瑛が泣きそうになったからだ。
実際に声を上げて泣いたわけではないのだが、幼いなりに泣くのを我慢しようとする姿を無視できる冷血人間はここにはいない。
何故そこまで初対面の晴穹を気に入ったのかは謎のままだったが。
そんなわけで子供を連れて自室に戻ってきた州侯を見た女官達は、そろって目を剥いた。
その後、寧瑛は正式に晴穹に引き取られることとなる。
数日後。
「ねえねえ、そう言えば面白い噂が流れてるんだよー」
「どんな?」
「晴穹は一回婚姻してて、寧瑛はそのときに生まれた子供だって」
「………」
何やら頭痛がしてきた晴穹であった。