小説(十二国記二次)
□第二十三章 証拠 後編
1ページ/3ページ
こぽこぽと湯を注ぐ音が響く。
ここは太師邸。茶を淹れている祥瓊の隣で、鈴が饅頭を用意している。それを、きらきらとした瞳で見つめる幼子が1人。
「おまんじゅうー」
「もう少し待ってね」
「はあい」
こっくりと頷く寧瑛を、祥瓊が懐かしそうな顔で眺めていた。
「蘭桂の小さい頃を思い出すわね」
「引き取った時は、この子よりちょっと年上ぐらいだったっけ?」
「らんけいさん?」
寧瑛が興味津々で顔を上げたその時。
「僕がどうかした?」
「あら、噂をすれば」
入り口から顔を出した青年を、鈴が手招いた。
「お茶にするところなの。蘭桂もどう?」
「うん、ありがとう。…で、この子誰?」
椅子に座っている童女を見て、蘭桂は目を瞬かせた。対する童女は、何故か青年をとっくりと観察している。
「…えっと」
大きな瞳で見つめられると少々居心地が悪い。蘭桂が言葉を探している間も幼子は彼から目を離さず、2人の間に妙な緊張感が漂い始めた。と、
「なんで見つめ合ってるのよ」
妙な空気をあっさり霧散させた祥瓊が、寧瑛に向き直る。
「この人は蘭桂。私達の、…そうね、弟みたいな子よ」
「おとうと?」
寧瑛は、一見逆に見える3人を不思議そうに見比べる。それを見た鈴が笑った。
「私達のほうが年上なのよー」
「…子って。この年で子って」
蘭桂はそこが引っ掛かったらしいが、祥瓊はさらっと流す。
「で、蘭桂。この子は、寧瑛。陽子が言ってた、晴穹が引き取った子よ」
「ああ、あの時話してた…って、なんでここに!?」
「…陽子がね」
「…連れて来ちゃった?」
「そう」
「…あの時、誰も信じなかったから?」
「よく分かってるじゃない」
2人は、鈴と話している童女を見て、揃って溜め息をついた。
4人で茶を飲んでいると、今度は邸の主が顔を出す。
「おや、その子は」
いつも泰然としている遠甫にしては珍しく、驚いたように目を見張る。
「ああ、この子は「晴穹の養い子ってその子?」
蘭桂が説明しようとしたところで、別の声がした。
「夕暉?なんで知ってるの?」
「陽子に聞いたよ」
夕暉の言葉に、鈴は呆れ返る。
「陽子、冢宰府まで話しに行ったの?」
「冢宰府だけじゃないみたいだよ」