小説(十二国記二次)

□第二十三章 証拠 後編
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こぽこぽと湯を注ぐ音が響く。

ここは太師邸。茶を淹れている祥瓊の隣で、鈴が饅頭を用意している。それを、きらきらとした瞳で見つめる幼子が1人。

「おまんじゅうー」

「もう少し待ってね」

「はあい」

こっくりと頷く寧瑛を、祥瓊が懐かしそうな顔で眺めていた。

「蘭桂の小さい頃を思い出すわね」

「引き取った時は、この子よりちょっと年上ぐらいだったっけ?」

「らんけいさん?」

寧瑛が興味津々で顔を上げたその時。

「僕がどうかした?」

「あら、噂をすれば」

入り口から顔を出した青年を、鈴が手招いた。

「お茶にするところなの。蘭桂もどう?」

「うん、ありがとう。…で、この子誰?」

椅子に座っている童女を見て、蘭桂は目を瞬かせた。対する童女は、何故か青年をとっくりと観察している。

「…えっと」

大きな瞳で見つめられると少々居心地が悪い。蘭桂が言葉を探している間も幼子は彼から目を離さず、2人の間に妙な緊張感が漂い始めた。と、

「なんで見つめ合ってるのよ」

妙な空気をあっさり霧散させた祥瓊が、寧瑛に向き直る。

「この人は蘭桂。私達の、…そうね、弟みたいな子よ」

「おとうと?」

寧瑛は、一見逆に見える3人を不思議そうに見比べる。それを見た鈴が笑った。

「私達のほうが年上なのよー」

「…子って。この年で子って」

蘭桂はそこが引っ掛かったらしいが、祥瓊はさらっと流す。

「で、蘭桂。この子は、寧瑛。陽子が言ってた、晴穹が引き取った子よ」

「ああ、あの時話してた…って、なんでここに!?」

「…陽子がね」

「…連れて来ちゃった?」

「そう」

「…あの時、誰も信じなかったから?」

「よく分かってるじゃない」

2人は、鈴と話している童女を見て、揃って溜め息をついた。





4人で茶を飲んでいると、今度は邸の主が顔を出す。

「おや、その子は」

いつも泰然としている遠甫にしては珍しく、驚いたように目を見張る。

「ああ、この子は「晴穹の養い子ってその子?」

蘭桂が説明しようとしたところで、別の声がした。

「夕暉?なんで知ってるの?」

「陽子に聞いたよ」

夕暉の言葉に、鈴は呆れ返る。

「陽子、冢宰府まで話しに行ったの?」

「冢宰府だけじゃないみたいだよ」
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