小説(十二国記二次)
□第二十二章 証拠 中編
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明るい日差しが、池の水に反射している。
その側を通り過ぎようとした祥瓊と鈴は、前方を歩いていた青年が、不意に上空を見上げたのに気付いた。
「台輔?」
上空を見上げていた慶の麒麟は、声を掛けた鈴を振り向いた。
「…?どうかなさいましたか?」
「あ」
景麒の行動の理由に思い当たった祥瓊のほうは、苦笑した。
「ようやく帰ってきましたか」
「ああ、そういうこと」
「そのようだ」
呆れたように溜め息をつく景麒の視線の先で、影が1つ近付いてきていた。
とりあえず、何か一言言ってやろうと考えた祥瓊は、目の前に降り立った妖魔の上の親友を見上げ――、ぽかんと口を開けた。
横目で確認すると、景麒が無表情に凍り付いている。
反対側を見ると、鈴が頬を引き攣らせている。
そして、
「きらきらー」
陽子に抱きかかえられた幼子は、景麒を見てぱたぱたと手を動かしていた。
気を取り直した祥瓊は、班渠から子供を降ろしている女王に声を掛けた。
「…陽子、その子は誰?」
「ねいえいです!」
訊かれたほうが返事をする前に、幼子が元気よく答える。
「礼儀正しいな、偉い偉い。…と言うわけで、寧瑛だよ」
陽子は、呑気に幼子の頭を撫でている。
「そうじゃなくてね…」
「…寧瑛?」
景麒が、ふと声を上げる。
「その字は確か…」
「そう言えばこの前聞いた気、が…、あ!」
続いて鈴が目を見開いた。
「思い出した?」
「うん…、晴穹が引き取ったっていう子よね?」
「ええ!?あの話本当だったの?」
話を聞いた時、一番疑っていた祥瓊が目を剥く。
「証拠を見せるために連れてきたよ」
「…和州から連れてきてしまったのですか?」
景麒の額に皺が寄った。
「養父の許可は貰ったぞ」
「よく貰えたわね…」
「疑った私も悪かったけど、何もそこまでしなくても…」
「寧瑛がお願いしたら割と簡単に許可してたよ。私は睨まれたけど」
「………」
半身からの視線が氷のようになったが、50年の間にすっかり鍛えられた陽子は気にすることなく笑っている。
「…真面目に働いてる臣下を、あまり苛めないであげて」